第29話「正義と相克」



■■【黒箱こくそう城客間】■■


 

 

 簡単に挨拶を交わしたあと、フェレライさんと僕たちは客間に移動して、ちょっとした報告会をすることにした。


 木製の机を挟んでこちら側に僕とジュン、対面にフェレライ親子という配席だが、なぜか大公はシアさんに抱えられている。


 国に名だたる大人物がちょこんと娘の膝の上に座っている姿というのは、如何にも不思議な光景だったが、部屋に入ってから流れるようにこの体勢になったので、突っ込むタイミングを失ってしまった。


 まあでも、シアさんも特に疑問を抱いていない(むしろ心なしかにこにこしている)様子だし、これがこの家庭なりの距離感というものなのかもしれない。


 

「ターナカ、ボクもあれやりたい」


「コラ、ワガママを云うんじゃない。シアさんが困っちゃうだろ。何人も膝の上に座ったら」


「ふむ、論点はシア殿を困らせるか困らせないかという部分なわけだね」


「……? どういう意味だ」


「じゃ、お邪魔して……」



 ジュンが僕の膝の上に座ってきた。


 

「なるほど」


 

 とりあえず云っていたことの意味は理解した。

 

 あとついでに『不思議な光景』が『異常な光景』にグレードアップしたのも理解した。


 あ、なんかいい匂いがするなあ。



「さて、では早速話すとするかの」

 

 

 フェレライ大公は小さい顎を撫ぜながら鷹揚に切り出す。


 さすがは【悪食大公】と呼ばれるだけあって、この程度の状況は動揺するに及ばないらしい。

 

 僕としてはめちゃくちゃ気が散りはするものの、まあ注意がそぞろなのはいつものことだ。

 

 

「ようやっとシアにも話したんじゃな」


「ええ、まずは謝らせてください。僕個人の判断で彼女を巻き込んでしまいました。本来なら大公にも話を通すべきところを――軽率でした」

 

「これこれ、主君が従者の前でそう簡単に頭を下げるでない。むしろワシも話すこの子にきっかけが欲しかったところじゃ。詫びる必要などはない」


「そう、ですか……。しかし、すると今回お呼び立て頂いた理由というのは――」


「うむ。まあちょっとした状況整理じゃな。貴公、物事を説明すること自体は上手いんじゃが、情報伝え漏れすることあるし」



 フェレライさんは少し振り返ってシアさんに問いかける。


 

「ワシがこの件に関わってること知らんかったじゃろ」


「……はい。初耳ですね」


「ほれ」


「…………」


 

 うわ。

 

 居たたまれなさすぎる。

 

 めちゃくちゃ耳が痛い。



「……さて、どこまで話しておるか分からぬから、重複する部分もあるやもしれんが、ワシらの目的は――『【』じゃ」


 

 シアさんが神妙な面持ちになるのが見える。ジュンは――背中側からは様子が窺いづらいが、どうせ飄々とした態度を取っているだろう。


 

「元々この案件はユーバ王が玉座についてより以降、ワシと王との間で度々問題として議論されていた事項じゃった。この国は一枚岩ではない。今この瞬間の平和は、王都が【もたらされているものに過ぎんのじゃ」


 

 そして、フェレライさんは語り出す。


 この世界――イディアニウムの現在について。




▲▲~了~▲▲

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