異世界侵略大作戦!

おべんぶー

第1話 ベータテスト

「おはようございます、プレイヤーの皆様」


真っ暗な空間。突然、頭に響いた声で吉野エイジは目を覚ました。


「おめでとうございます。皆様は当ゲームのベータテスターに選ばれました」


べーた…テスト?なんのことだ…

酷く頭が痛む…思考がまとまらない。

身体を起こそうとしたが、動かない。

手足が固定されているのではない。動こうにも、そもそも力が入らないのだ。

口を開き、声をあげようとしたがそれもできない。

なんということだ、思考する以外のことが何一つできなくなっている。


「申し遅れました!ワタクシ、グリードゲーミング・インクの蛇喰じゃばみと申します。短い時間ではありますが、本日はどうぞよろしくお願いします!」


耳で聞こえるのではなく、頭に直接声を流し込まれているようだ。

グリードゲーミング…有名企業だ…。

大手企業グリードインダストリーを親会社に持つ、新進気鋭のゲーム会社。

ギャラクティカヒーローズ、ブラックローズオンライン、イレヴンナイツ。

発表する全てのゲームでその年の賞を総舐めする、今最も熱いゲームメーカーだ。


「皆様には我が社が開発したフルダイブVRオンラインゲーム、『パライゾ』を先行でプレイいただきます!」


パライゾ?そんなゲーム聞いたことないぞ…?

ゲームの最新情報は昔から常に追い続けている。目ぼしい情報であれば見落とすハズがない。ましてや、フルダイブだって!?そんな超最先端技術を用いたゲームであればバイトをサボってでも体験会に出向くに違いない。

だが、実際そんなゲームの情報は見たことも聞いたこともない。SNSでの真偽が定かでないつぶやきでもそのような開発が行われていたという情報はない。


「『パライゾ』なんてゲームのベータテスト、申し込んだ覚えはない。と、皆様思っているんですよね?」


顔は見えないが蛇喰がニタリと笑った気がした。


「実は皆様は既にゲームの中に居ます。ログイン前に説明はしましたが、フルダイブ実施後、前後の記憶の混濁が生じます。覚えていないのは恐らくそのせいでしょう。ちゃんと皆様からの申し込みは受け付けております。皆様は当選なさり、この素晴らしい体験を受けるに至ったのですよ!」


つまるところ、既に俺はこの状況になることを承諾している?記憶が全く無い為、なんとも言えないが…


「皆様の目的は一つだけ。未知の世界、パライゾに君臨する王を討伐することです。期間は1ヶ月間。討伐に成功したプレイヤーには協力いただく報酬とは別で、『討伐報酬1000万円』を用意しております。難易度はかなり高く設定してあります。協力して山分けもいいですよ。是非、王に挑戦してみて下さい。あぁ、あとログアウトはできませんのであしからず」


1000万円!?

冗談だろ!?世界初のフルダイブゲームとは言えテストプレイだぞ!?それにログアウトができない?1ヶ月間も!?その間の食事や排泄はどうするんだ!


「栄養補給に関してはご安心ください。当社には優秀な医療スタッフも揃っております。少なくとも、ゲームプレイ中に栄養失調で死ぬことはありません。それに…皆様、事前にいただいています…」


承諾…するか…?

いくらなんでも怪しすぎる。

時間にしたって1ヶ月間もテストプレイをする意味がわからない。

今は口が開かないため出来ないが、ゲームに入ったら辞退の申し出をさせてもらおう。フルダイブゲームなんだ、きっと外部との連絡手段が用意されているはずだ。


「さてさて!そろそろお時間です!堅苦しい説明はこれでおしまい。これから皆様をパライゾに転送致します。どうか不安がらないで。なぁに、バカンスにでも行くと思えばいいんですよ!楽しい1ヶ月間の異世界転生生活です。現実では出来ないことを存分にお楽しみ下さい!」


事態も飲み込めぬまま、意識が沈んでいく。

この時の僕は、これから向かう地が楽園パライゾとは程遠いなんて想像すらできなかった。

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