第11話 瞬3

 愛し合うカップルのみが大事な時間を過ごせる、待ち合わせの高級レストラン、年代物の木彫を施したような厚く重いドアの前で立ち止まり、深呼吸して気持ちを整え室内に入った。


 「いらっしゃいませ」


 ドアの前で軽く会釈し待ち受けるタキシード姿に、予約した名を告げ案内を求めた。


 豪華なシャンデリアが、朧月のように仄暗い室内を淡く照らす。いつも身を置く日常とはまるで異なる重厚な空気が体を包む。


 踏み出す足を受け止める厚く柔らかな真紅の絨毯が、疲れた身体の重さと足音さえ消し去るようだ。


 それぞれのテーブルでは、キャンドルの炎が、向かい合う2人の顔を幸せ色に彩り、2人だけの世界を創っている。


 案内され、1番奥のテーブルに着く。

 座ったことがない豪華な椅子に腰を落とし、腕時計をのぞいた。まだ約束の時間には20分弱ある。


 テーブルの上のキャンドルが、やさしく揺れている。通常のキャンドルは白色のものだが、オーダーすればカラーキャンドルに変更することができる。


 淡い桜色、淡い水色、淡い枯葉色、淡い黄色と4色から、1000円払って、桜色のキャンドルを予約しておいた。


 柄にもなく緊張して、赤面するのが恥ずかしかったから・・・・・


 約束の時間の10分前、タキシードの案内の背中越しに待ち人の影が見えた。


 「ごめんなさい、お待たせして」


 まだ時間前なのに、微笑みながら大きな木製の椅子に、恥ずかしそうに座った。


 さあ、新しい人生の幕が開いた。


 目一杯奮発してオーダーした豪華なフルコースも、たぶん、味なんかわからないだろう。心も命も、バックの中の指輪と手紙に託してしまったのだから・・・・・


 「誕生日おめでとう」

 「お誕生日おめでとうございます」


 互いに合わすグラスにも、熱い思いが無数の星になって飛び交うようだ。


 「今夜は、きみに渡したいものがあるんだ」


 もしかしたら声が震えてしまったかもしれない。顔は熱く火照る。心臓が爆発しそうに鼓動する。恥ずかしいけど震えが抑えられな指先で、彼女に渡した指輪と手紙。


 とっても小さいけれど、心を込めたハート型ダイヤの指輪。


 一晩中寝ないで考えぬいた手紙には、短い一言しか記せなかった。


 『僕の心も、命も、人生も、貴女のために。よかったら二人で生きてくれませんか』


 桜色のキャンドルがやさしく揺れる。

 手紙を読み終えたあと、桜色にひかる涙が彼女の頬を飾った。


 「ありがとうございます、お願いします」

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