第3話

 さすがにカチンと来た。


「ここは私の両親が造った大事な店です! 今は私達姉妹の店でもあります! なんで私が出て行かないといけないんですか! とてもじゃないけど承服できません!」


 殴るなら殴れ! 私は開き直って叫んでいた。今まで私に反論されたことのなかったダリルは一瞬呆気に取られていたが、すぐに顔を怒りで真っ赤にさせて、


「こ、このぉ! 薄汚い平民の分際で貴族である俺様に逆らうというのか!」


「なにが貴族ですか! この店の売り上げに集る寄生虫のクセに! なんにもしていないのに貴族だからという理由だけで威張りクサって! あなたの方がよっぽど薄汚いですよ!」


「き、貴様ぁ!」


 ダリルが私のことを殴り飛ばそうと振りかぶった。私は思わず目を瞑る。だがいつまで経っても痛みは襲って来なかった。


 私が恐る恐る目を開けると、この店の常連であるクレア伯爵夫人が目の前に居た。両親が健在の頃からご贔屓にしてくれている方だ。


「痛たたたた! な、なんだ貴様は!? は、放せ放せぇ!」


 そしてダリルの手を捻り上げているのは夫人のボディーガードだ。


「お店に来たら誰も居ないからおかしいと思って裏に来てみたら、これは一体どういうことかしら?」


「クレア伯爵夫人、お騒がせして大変申し訳ございません」


「えっ!? は、伯爵夫人!?」


 まだ夫人のボディーガードに手を捻り上げられているダリルの顔色が一瞬で変わった。


「あなたは確かホランド男爵家の者だったわね? この店を取り仕切っているアンナを追い出すとか聞こえたけど? 一体なにがどうなったらそういうことになるのかしら?」


 それは私も気になってはいた。どんな屁理屈で私を追い出そうとしたんだろう?


「そ、それはその...こ、この女が...アンナが姉の言う事を聞かない...からです.. 」


「言う事とは?」


「そ、その...この店の売り上げを更に上げるように仕事を増やしたのですが、それは無理だと言って言う事を聞かないんです...」


「当たり前です! あなたの度重なるセクハラ、パワハラ、モラハラのせいで、若く優秀なお針子さんがみんな辞めちゃったんですよ! そんな状態で新たに仕事を増やせる訳ないじゃないですか! 私の目の下の隈をご覧なさい! 睡眠時間を削ってまで必死に働いて、やっと現状を維持できてる状態なんですよ! 遊び歩いてただ威張り散らすあなたには分からないでしょうけどね!」


 私は思いの丈をここぞとばかりに全て吐き出してやった。


「な、なんだとこの! 痛たたたた!」


 まだ腕を捻り上げられているというのに学習しない男である。

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