EP24 縛りプレイと漁師町 3

豪華な朝食と、アルデリアが追加で注文したデザート(もちろんアルデリアが食べる分だけ)を平らげ、四人は満足げに椅子に深く座って余韻を楽しんでした。


「それじゃあ、食後の腹ごなしも必要だから、レベルアップとスキルの整理でもしていこう」


「レーゲン、なんでそんなに熱心にステータスの確認をしようとしてるんだ?」


「君たちのキャラクターに興味があるのさ。なにせ、僕はソロプレイヤーだから。他のプレイヤーがどんなスキルを持っていて、どういったプレイスタイルなのか、せっかくの機会だから見てみたくてね」


「なるほど。それじゃあ、俺から確認していくぜ」


 トールはシステム画面を呼び出し、レベルアップの状況とステータスを目で追った。


「レーゲンの言うとおり、レベルアップはしてるな。ステータスは、いつも通りAGIに全部振り分けて、っと……」


「君、AGIに極振りしているのかい!?」


「ああ、元々体を動かすのとか、走るのとかが得意だからな」


「素早さは優秀ですわね」


 デザートまで食べて機嫌を直したらしいアルデリアが口をはさんだ。


「うっさいぞ。スキルは、『ファストムーブ』と『ツイン頭撃ストライク』がそれぞれ1レベルずつ上がったみたいだ。それと、『イマジナリーシヤドー』とかいう、新しいスキルを覚えたみたいだな」



 スキル:イマジナリーシヤドー


 スキルを使用すると、その場所にスキル使用者の残像を作り出す。



「残像か……アクティブ・モンスターのターゲッティングに使えそうだね」


「アクティブ・モンスター?」


「プレイヤーの姿を見つけると、こちらの攻撃意志がなくとも襲いかかってくるモンスターのことだよ。対照的に、こちらから手を出さない限り襲ってこないのが、パッシブ・モンスター」


「……今まで出会ったのは、全部アクティブ・モンスターだったってことか」


「きっと運が悪いんですわ。特にLUKが0の誰かさんのせいで」


「なっ……。そういうアルデリアは、何か新しいスキルでも覚えたのか?」


「ええ、私は大変便利なスキルを習得しましたわ」


 アルデリアはシステム画面をテーブルに水平に移しだし、三人はそれをのぞき込んで確認した。



 スキル:水中呼吸


 このスキルの対象者は、一定時間、水中で自由に呼吸し、行動できる。効果が切れると、呼吸できなくなり、呼吸可能になるまで1秒ごとにダメージを受ける。


 有効時間:5分間



「おお、水中で呼吸ができるようになるのか! この間の戦闘で、このスキルがあったら迷わず川に飛び込んでいたかなぁ……」


「たとえ川に逃げたとしても、上空からデュラハンの攻撃を受けて全滅は間違いなかったでしょうけどね」


「でも、お嬢さんが覚えたこのスキルはかなり強力だね。この先、水中でモンスターと闘うこともあるかもしれないからね」


「そうね、できればそんな場面に遭遇したくないけど……。それじゃ、私は……」



 フレイは自身のシステム画面を開いて確認すると、息を詰まらせた。


「どうした、フレイ?」


「……いえ、何でもないわ。私は新しいスキルは覚えなかったみたい。ステータスは、VITにメインで振っておくわね。これでまた、あなたたちのことを守りやすくなったと思うから」


「ありがとうございます、フレイさん!」


「フレイ君、君はクルセイダーだったかな。ゲームシステム的な事を言えば、クルセイダーも戦士系のジョブだから、何か攻撃スキルのようなものもあるのかい?」

 

「ええ、『シールド・チャージ』って、盾を構えて相手を押さえ込むスキルがあるわよ」


「ふぅん、そうか……」


 レーゲンは何やら訝しげな目でフレイを見た。


「何? 私の顔に何か付いてる?」


「いいえ、特には。ちなみに、そっちのお嬢さん口には、デザートのクリームが残っているけどね」


「むぅっ!?」


 アルデリアは慌ててナプキンで口の周りをゴシゴシと拭った。



「ちなみに僕は、レベルアップはしなかったよ。少しばかり、君たちよりはレベルも上のようだし、必要な経験点がまだ不足しているようだ。あと、僕の所持スキルは銃器の攻撃スキルと、属性付与スキルが中心で、サポート系のスキルと言って良いのかわからないけれど、睡眠を誘発する『スリープ・バレット』が使える」

 

「睡眠? それって、人間プレイヤーに対しても有効なのですか?」

 

「さぁ、試したことはないからわからないけど」


「そうですか。もし人間プレイヤーにも効果があるのでしたら、トールさんにも使ってみたいですわね」


「な、なんでだよー!?」


「覗き防止のためですわっ! 特に、シャワーを浴びたり、着替えたりするときに……」


「トール君……君は、シャワーも覗く癖があるのかい……?」


「違う、違う! これには事情があってだな――」


「待ってください! 誤解のないよう、私が説明いたしますわ!」


 アルデリアはこれまでの旅の顛末や、トールとアルデリアが持つリムーブ不可のスキルのことを、レーゲンに細やかに説明した。


「それで、君たちは仕方なく一緒に、お嬢さんのお父上の事件を調べに、王都に向かっている、と」

 

「私は、このゲーム内で強力なモンスターが突然現れたり、おかしな事が起こったりしているから、王都に行って確かめるために同行してるって感じよ」


「ふぅん。そうか。僕も含めて、皆目的地は同じ、と。でも、ちょっと困ったことになったね」


「困った事って?」



「この漁師町から、陸路で王都に向かうのは不可能に近い。だから、海路を使って、船で王都の近くへ向かう必要があるのだけれど――」


 レーゲンが話を始めるタイミングで、宿の主人が、おずおずとテーブルまでやってきた。


「その船の航行に必要な羅針盤が、盗まれてしまったのです……」

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