EP12 縛りプレイとレベルアップ

アルデリア邸のダイニングは広々とした大理石の床に、高級そうな木製のテーブルと椅子が並べられた、絵に描いたようなお金持ちの食卓だった。


 アルデリアは紅茶を運んできた。


「さて、じゃあまずは俺の方から――」


 トールはシステム画面を開き、自分のステータスとスキルの情報をアルデリアと共有した。


「……なんですか、このいびつなステータスはっ!?」


「いや、AGIに初期ステータスを全部振ってみたんだよ。極振りってやつ」


「発売されて間もないゲームで、いきなりそんなことする人は初めて聞きましたわ……」


「そうなのか? まー、実際に頭よりは体を使う方が得意だし、足の速さは自信があるしな。おかげで盗賊のキャラクターになれたし」


「それに、スキルは『ファストムーブ』だけですか……」

 

「あと『運命の絆』もあるぞ?」


「それはできれば思い出したくないので、言わなくて結構ですっ!」


 アルデリアは額に皺を寄せた。

 

「しかし……AGIに極振りした上に、速度上昇をもたらすスキルだけって……今の状況では、限定した範囲でしか動けませんから、ほぼほぼ死にステータスと死にスキルですわね」


「うっ、確かに、そうだな。アルデリアと行動していて、『ファストムーブ』が役に立った場面は無いよな……」


「ええ、ですから、次に上げるステータスは、この状況下で役立つものに――」


 アルデリアが言い終わらないうちに、トールはステータスポイントの振り分けを行った。


「まー、ここまできたらやっぱりAGI極振りだよな。今のレベルアップでもらった20ポイント、全部AGIに振っておくよ」


「また、あなたは、状況がわかってますの!?」


「AGIを上げておけば、少なくとも避ける能力は上がってるだろ?」


「それはそうですが……もし避けられないような強力な攻撃を受けてしまったら……一撃でもあり得ますわよ?」

 

?」


「……ご存じなければ説明しますが、このゲームの中での死亡、すなわちHPが0になるということは、そのキャラクターの死を意味するのです。つまり、この世界ではそのキャラクターは死亡したことになって、プレイヤーは二度とそのキャラクターになることはありません。これをロストと呼ぶのです」


 トールは、背筋がぞくっとするのを感じた。


「キャラクターは一度死亡したらそれっきり、って、一緒にいたプレイヤーにも影響があるのか?」


「ええ、他のキャラクターの記憶は、当事者は死亡したものとして書き換えられます。ですから、仮にプレイヤーが別のキャラクターでゲームを始めても、死亡したキャラクターの記憶は引き継げず、前の仲間とゲーム内で出会うことはほぼ不可能ってことですわ」


「なんだか、本当に自分が死んでしまったような感じになるんだな……」

 

「ええ、本当にリアル・ロール、ですわね」


「……わざと俺を殺したりしないよな?」


「善処します」


 抑揚の無い声でアルデリアは即答した。


「気を取り直して……アルデリアのステータスとスキルも見せてくれよ」


「ええ、こちらですわ」


 アルデリアの職業は『プリースト』となっていた。ステータスポイントはINTに多めに振ってあったが、それ以外はある程度バランスを保っていた。


「スキルは、『ブリツツ』と『キュア』……と、『運命の絆』か」


「最後のは余計ですってばっ!」


「なんだ、アルデリアだって使えるスキルは2つしかないじゃないか」


「ま、まぁ、私も発売日から連日遊んでいるわけではありませんから……」


「それで、『プリースト』ってのは、どんな職業なんだ? アルデリアは学校に通ってるんだろ?」


「ええ、神学学校に通っているとおり、神に祈りを捧げ、人々を助ける職業ですわ。スキルは、それに倣って、奇跡を起こすものが多いみたいですわね。回復魔法や、自然の力を利用した攻撃魔法なんかが使えるようになる、そうですわ」


「そうですわ、って、説明書にでも書いてあったのか? 俺は全然読まずにゲームを始めちまったからなぁ。盗賊もどんなもんだか、見ておくんだった」


「ただ、どんなスキルがあるのかや、その取得条件なんかは、ほとんどわかって無いそうですわ。だから、私たちの『運命の絆』のような、無茶苦茶なスキルも、きっと他にも存在するんでしょう……」


「そりゃ、恐ろしいな……」


 アルデリアは、そんな話をしながら、スキルポイントをまたバランス良く、INTに少し多めに割り振った。


 お互いのステータスとスキルの確認が済むころには、アルデリアが入れた紅茶を二人とも飲み終わっていた。

 

「ごちそうさま、カップを下げてくるよ」


 トールは立ち上がって、二人分のカップをキッチンの奥に下げに行った。そのとき、システムメッセージが届いた。


《クエストが発生しました》


「ん、アルデリア、俺のところにクエストの通知が来たみたいだぞ」


「ええ、私にも今来ましたわ」


トールは早速クエストの詳細を開いた。

 

 ~クエスト:謎のナイフの持ち主を探せ~


 遺跡で見つかったナイフの手がかりがわかった。盗賊ギルドで情報を確認すること。


 対象レベル:Lv 2以上


「早速あのナイフの情報が出てきたみたいだな」


「ええ、早速盗賊ギルドに行ってみましょう」


 トールとアルデリアは下げたカップもそのままに、早速アルデリアの家を後にして盗賊ギルドへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る