EP8 縛りプレイとルーウィックの街

 遺跡内のモンスターを退治した後、そのまま通路を進んでいくと、入り口とは離れた森の中に出られた。そして、街へ戻る街道を見つけると、自身が通っている神学学校に連絡なしで探索へと出てしまったアルデリアは、トールとともに足早に街へと戻っていた。


「なぁ、アルデリア。俺の足で、街を出てから遺跡まで歩いて1時間くらいだったと思うんだが、なんで途中で街に戻らなかったんだ?」


「そ、それは……」


「それは……?」


「あ、あの遺跡付近に、歩いても歩いても同じ場所に出てしまう、不思議な道がいくつもあったのです。そこから脱出しようとしていたら……いつの間にかあの遺跡に着いたのです。そう、きっと、あの辺りは迷いの森になっているのですわ」


「……迷子か」


「違いますっ!」


頬をぷっと膨らまして、抗議をしていたが、明らかに嘘のようだ。

 

(お嬢様という割には、なんとなく抜けてるところがある奴だな……)


 てこてこと後ろをついてくるアルデリアを見ながら、トールはこれまでのできごとを思い浮かべた。そうして歩いていると、1時間と少しくらいで街へと戻ってくることができた。


 ◆◆◆


「さ、着いたぞ。まずは、その学校に向かうか……って、俺はその学校がどこにあるかはわからないみたいだ」


「そうですか。確かに、盗賊ギルドに住んでいるのでしたら、きっと街の北側地区には用はないでしょうしね」


 そういって、アルデリアはこの街――ルーウィックの簡単な地理をトールに説明した。


 ルーウィックは南北を結ぶ大きな通りが街を縦断しており、中心部には大きな広場がある。

 

 さらに東西でも住んでいる住民の傾向は異なっている。今二人がいる街の南側は、いわゆる一般市民が住んでおり、その中でも特に東側に低所得層が住むエリアがある。盗賊ギルドは中央の大通りに面しているが、東の低所得層エリアに程なく近いところにある。


 一方の北側は、街の権力者や政治家、学者などが住まう地区があり、裕福な人々が暮らすエリアがある。アルデリアの家もそのエリアの中にあるのだという。

 そして二人は今、やはり北側のエリアにある、アルデリアの通う神学学校を目指していた。

  

「メイベル先生に早く報告しなくては……」


 ぶつぶつとつぶやきながら歩いていると、程なくして閑静なエリアの中に佇む、白い教会に到着した。

 大きめの屋敷一軒分程度の場所に、こぢんまりとした洋館と、細長く丸みを帯びた塔のような建物が組み合わさって建っていたので、トールは拍子抜けした。

 

「てっきり学校っていうから、もっと大きいところかと思ってたけど、教会なんだな」


「ええ、神学を教えるのは神に仕えるもの。ですから、教えの場は必然的に教会になるんです」

 

 入り口で建物の様子を見ていると、ちょうど入り口の木のドアが開き、修道服に身を包んだ長身の女性が姿を見せた。そして、こちらに目を向けると――


「……アルデリア! よかった、戻ってきたのですね!」


「メイベル先生!」


 メイベルと呼ばれたその女性は、慌てて二人のところに駆け寄ると、アルデリアの手をひっしと握った。


「あの恐ろしい事件の後、あなたまで姿が見えなくなってしまって……。あなたも、事件のことで忙しくしているのかも知れないと、他の先生や生徒たちにはごまかしておいたのだけど、戻ってきてくれて本当に良かったわ!」


「先生、本当に申し訳ありませんでした。急いで出かけなければならなくなってしまって、先生に声をかけることも忘れてしまって……」


「いいのよ、あんなことがあったんだもの」


メイベル先生はうっすらと瞳に涙を浮かべて、安堵の表情を浮かべていた。

 

「それで先生、実はこれからまた出かけなくてはならなくて……またすぐに戻りますから」


「あら、そうなのね……。わかったわ、とにかく、気をつけてね。それと――」


 メイベル先生は、アルデリアの横でそのやりとりを見ていたトールに視線を移した。

 

「俺はトールって言います。ちょっと成り行きで、アルデリアと一緒に行動してるところで」


「トールさん、ですか。そうですか、アルデリアをよろしく頼みますね」


 メイベル先生はトールの手も取ると、深く頭を下げた。


「もう、先生、この人は私の保護者でもなんでもありませんわ。それじゃ、来たばかりですみませんが、また後ほど」


 そういって、アルデリアとトールは、再び来た道を戻っていった。


 道すがら、ふとトールは疑問に思って訪ねた。


「なぁ、先生はまだしも、友達には話してこなくて良かったのか?」


 その質問を投げかけた瞬間、トールはアルデリアがふと遠くの方を見たような気がした。


「ええ、先生にお話しできれば十分です。きっと、他の皆さんにも伝えてくださるでしょうから」


「ふぅん、そうか……」


そうつぶやくように言うと、心ばかりか、アルデリアは歩く速度を速めたような気がした。


「……おっと、待ってくれよ、アルデリア」


 大通りは南に向かうにつれて、冒険者や街の人々で賑わいを見せていた。少し前に殺人事件が起きたとは思えないくらい、平和そのもの――トールの目には、そんなふうに街の様子は映っていた。

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