同郷の異世界人

神崎あら

第1話 同郷の異世界人



「いい加減さぁ倒れてくんない?」

「グォォオ!!」


 人気のない山の奥、俺はそこで今人狼とやり合っている。

 つい2年くらい前まで俺は、日々のテストに追われながら単位を追うわりと勤勉な大学生だった。

 それが気がつけばどこかわからない世界で冒険者をしている。

 しんどい、休みたい、逃げたい、そんな事何回も考えた。

 でもそう思えば思うほど目の前の残酷な現実が追いかけてくる。

 あー、いっそ死んじまった方が楽なんかなぁ。


「おっ、」

「ガルルル」


 そんな事を考えてると一定の距離を保っていた人狼が一気に詰めてきた。

 人狼の鋭利な爪を持っている刀で受け止める。

 勢い凄っ、まぁ向こうは俺を殺す気なんだからそらこのくらいの勢いでくるわな。

 ま、受け止められるけど。


「大丈夫かそんなに近づいて?周りの警戒とか緩んでんじゃない」

「ガルッ?」

「タイミングばっちしじゃん、軍曹」

「ふんっ!」


 俺が人狼を受け止めてから約1秒後、影魔法ーインビジブルを解除し背後から軍曹が人狼の首を両断した。

 

「ナイス囮!」

「ナイスフィニッシュ!」


 仕事を終えた軍曹がそう言って俺の肩を叩くと、それに合わせて俺は軍曹のたぽたぽのお腹に拳を当てた。


「結構かかったね」

「ああ今回のはなかなか手強かった、もう暗いし今日はここで野宿だな」

「了解!焚き木探してくるね」

「おう」


 そう言って軍曹は小枝やら枯葉やらを探しに茂みの中に消えた。

 なんか当たり前に野宿とかできるうになったよなぁ。

 この世界に来て初めの方は本当に苦労した、住む家探しに仕事探し、今まで普通の大学生だった俺には初体験ばかりだった。

 詐欺には遭うし、危うく殺されかけるなんて日常茶飯事だったし、もうほんとその手の話は思い出そうと思えばキリがない。

 まぁでも……


「必死にやればなんとかなるもんだよなぁ」

「ユウキ〜、これくらいあれば朝まで足りるかな?」


 そんな事をボーッと考えていると腕いっぱいに焚き木を抱えた軍曹が茂みの中から出てきた。


「おう!そんだけあれば足りるだろ」

 

そんなこんなで今日も夜が更けていく。




ーー2日後



「え!あの人狼討伐でそんなに入ったの?」

「うん、だいたい70000セルツだったよ、ほれその半分」

「お、おうありがと」


 人狼討伐から2日経ち、俺と軍曹は拠点である第一商業都市チェスターに戻り、その中にある行きつけの酒場で飯を食っていた。

 基本的に人狼討伐報酬は10000セルツ〜30000セルツくらいで、そんな2倍以上の報酬が貰えるなんてまず考えられない。

 もしかしてあの人狼レアモンスターだったのか?


「まぁ正式な報酬額って言われてるし、ここは普通に受け取っておこうよ」

「そ、そうだな」


 色々腑に落ちないこともあるけど、まぁここはラッキーだと思うことにしよう。


「よぉお前ら、今日もその格安定食か?」

「げっ」

「あ、団長!」

「よぉお前ら!」


 日替わり定食ー銅、通称格安定食を軍曹とともに食らっていると、俺たち2人の向かいに綺麗な赤髪の女が座った。

 そうこの人物こそ我がギルドの女団長レオナである。

 ちなみに俺はこの女が苦手だ。


「いきなりなんですか?」

「ん?ああ用事だよお前らにな!」

「用事?一体僕らに何の用があるんですか?」

「よく聞いた軍曹!おいユウキ!どこ行くんだ?」

「え?」


 気づかれないようにゆっくりとその場を後にしようとしたが見つかってしまった。

 おかしいガタイの良い軍曹の影に隠れながら移動したはずなのになぜ見つかったんだ?


「いやユウキ、いきなり目の前から人が歩いてどこかへ行こうとしたら流石に気づくから、団長のことバカにしすぎだよ」

「なはは、まぉ観念しろって」


 そう言って団長は右手で空席となった俺が座っていた席を指差した。

 あーめんどくさ、どうせまた厄介ごとに巻き込む気なんだろうなぁ。


「なーに話は簡単さ、お前たち2人にとある人物の護衛を頼みたいんだ」

『護衛?』

「ああ、先の内戦で空位となった隣国エスタリアの王族、エリシア=エスタリアをエスタリアまで護衛するんだ」

「え、王族の護衛?ユウキ……これって」

「ああ、これは特殊選定クエストだ、はっきり言って俺達の手に負えるものじゃない」


 困惑する俺達に不敵な笑みを浮かべる団長。

 いやいや、普通に役不足だと思うし、何より危険な匂いしかしない。

 うん、ここは断ろう。

 


 



 

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