アンドロイドを見分ける女の子 その一

 親愛なる友へ、あたしの大好きな友だちのローズマリー、あなたにこの日記を捧げる。 

あなたの愛するあなたの知性が、この日記を理解してくれますように。

 この世界を愛しますように。


 この日記に日付は要しない。というのも、あなたは時間という概念を疎ましく思って、あたしという一人の個人と空を同じくしない。

 あたしの学校には、アンドロイドの学習が義務附けられているらしく、あたしのクラスメイトにも、幾体も居る。

 その裡の一体に、あたしは、初恋をした。

 笑ってくれますか。あたしの初恋は、技巧的な匂いの燻らす、見ごとな、機械だった。

 先生は、

 「いいですか。みなさんがこの現代社会に問われている物事とは、何か判りますか?」

 ——静かだ。

 「有能は死ぬまで働け、無能は今すぐ死ね。とまあ、少し言い過ぎですが、警察庁の公式ウェブサイトを見ると、令和元年の自殺者は、二万人に達するとされており、世界的な視点では、自殺というのはタブーとなっていて各国でも自殺は深刻な問題となっています。

 世界的にタブーとされているが、そうでもない、案外簡単に死を選ぶ、という発展途上国特有の隠微な問題でもありますが、しかし公式には表沙汰にしていない自殺というのもありましょう。

 自殺を選ぶ、という一見して安佚なセンチメンタリズムの前に、本統に自殺を堰止めるような手段は、その行為をなそうとする直前にも、目の前に居て、その死と向き合う、涙とも思い出ともつかぬ。という美談でした」

 「大概人間の癖にはパターンがある。一つ癖が在れば一般的に言って個性があるように思う。個性とは既に考えられた概念であるが大抵の人間は常識に乗っとる。パターン通りに主人公たちの癖を考えたい。肉体的或いは精神的に向上心を煽るような癖が望ましい。言い換えれば、キャラクター性とは口癖の外に登場人物として形を作りたいときに用いる作為的な動作による」

 落書きから、目線を上げた。口角が動引き釣るらしかった。

 授業の後、校舎の外の木の長椅子に坐り、物思いに耽っていた。

 アンドロイドが何の疑問も無いらしく隣りに、坐った。

 「君は、太陽に恋をしたか」

 不意な難問だった。けれども、あたしは、 

 「うん。でもね、太陽は月に片想いをして、月は満ち欠けをする、その度に行方知れずな恋の駆け引きは、遂に児戯に等しいのだよ」

「インテリ特有の体臭がする……」

 彼は陽光体……。

 そっと、そよとの風が彼の髪にふれていき、軽くウェーブがかった赤茶いろの髪の下の、ブラウスの、衿元に、紋章を附けてあげた。

 「あなたはあたしのものだ」

 もはや、可憐な花弁みたいな科白だった。

 「生きていてくれてよかった」

 アプリを起動しゲームをする。ちょっと、照れ屋なあたしには最適解の偽装工作だった。

 「生きてれば、やがて清冽な個性的の足許に、聖なるものの植えた、一輪の花が咲く。その花の、傲岸として云うには、

  「鬨の声を上げろ、者ども」

 紅茶が来た。続きは、また今度。















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