月を翔る龍星騎士(ドラグナイト)

野崎ハルカ

1章「再開した日」

01_始まり

 パチパチと、火の粉が舞い上がる。


「――ねぇ、私が悪かったのかな」

 

 ――そんなわけがない。

 ぼくはきみの事についてよく知らないけど、でも誰だってこんな事分からなかったんだ。


「……手を、繋ごうよ」


 何をしていいか分からず、ただ悲しそうに下を向く少女の近くに居たかった。

 悲鳴と慟哭。爆破音と破砕音。崩れた瓦礫が積もる足場。黒雲と立ち昇る煙。ここはほんの少し前まで観光客で賑わっていた市場。最早そんな痕跡跡形もなく消え去った。


「いいの?」

「うん。そうしたいんだ」


 言葉はあまり分からないけれど、何となくどんな気持ちなのかは分かる。だから伝わっていない事を承知で、せめて行動で示そうとしたんだ。

 目の前の君は、顔を上げてくれた君は、微笑んでくれただろうか――。



  🗝


 

『ご覧ください。こちら上空からの映像になります』

「んあ」


 机に突っ伏したままの頭を起こす。どうやら眠っていたらしい。

 テレビに映るのはとあるニュースの映像。今から凡そ三十年前に起きたある歴史的事件の貴重な映像、らしい。貴重も何も、当時を知らぬ子供ですらも一度は見せられた映像がそのままに流れているだけ。

 中学生の歴史の授業、ないし道徳の授業。全くを持って同じ内容同じリポーターの姿と声が施設に備えられたテレビに映る。


「最近、よく見るな」


 霞と消えた夢の残滓。それに対して何かを思ったはずだが、それすらも溶けて消えて行った。違和感に頭を掻いてみるが、何も掴めなかった。

 周りを見ても誰もいない。テーブルの上に置いてあったリモコンを手に取り、電源を切った。立ち上がり、少し重い指定鞄を手に取る。登校前の空き時間。時間を潰せるのは備え付けられた共用の大型テレビだけで、だから大抵はここにいる。この時間は、ニュースしかやっていないが。


「……そろそろ時間か」


 アナログ時計の針は斜め左下。時刻としては七時を少し過ぎたところ。

 玄関へと向かう。大小様々なサイズの靴が等間隔に並んでいる中から自身の靴を取り寄せ足を通した。踏まないように気を付けて乗り越えて、扉のノブに手を添える。

 扉を開けた。


「行ってきます」


 誰も答えることはない空言は自分にだけ。いつも通りのそれに何かを思う訳もなく学校へと足を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る