恋のアルゴリズム

@ayaka18

第1話 出会いの定理

清々しい朝の空気が、川田光司の肌をくすぐる。今日もまた、数学に勤しむ日が始まる。彼の手元には一冊のノートと数本の鉛筆があるだけだった。でも彼にとって、それが全世界だった。


「よし、今日は農夫問題だな。」声に出さずに呟き、彼は数学の問題に取り組む。


一方、春野莉緒は、都会の喧噪が心地よく響くバルコニーで一日を始めていた。彼女の目の前には一杯のコーヒーと、落ち着く景色が広がっている。


「新しい一日、新しい街、新しい学校……これが高校生活か」彼女はゆっくりとコーヒーをすすりながら、眼前の街並みを眺める。


光司と莉緒の出会いの舞台は、数学の教室だった。数学教師の佐々木先生が莉緒を紹介する。


「みんな、こちら新しく転校してきた春野莉緒さんだ。よろしく頼むぞ。」


「はじめまして、春野莉緒です。よろしくお願いします。」新たなクラスメイトたちに向かって微笑む莉緒。その笑顔は、まるで春の暖かさのようだった。


光司はその微笑みに気付くと、彼女の美しさと知性にひそかに心を奪われていた。一方で、莉緒もまた、光司の数学への情熱を目の当たりにし、興味を抱いていた。


その日の授業は、微積分だった。教師が複雑な問題をボードに書き出すと、光司は手を挙げる。


「川田君、どうだ?」


「はい、先生。この問題の答えは6x^3 - 9x^2 + 4x - 7だと思います。」と、光司は堂々と答える。


「見事だ、川田君。正解だよ。」先生がほめると、クラス中から賞賛の声が上がる。その中で莉緒は、手元のノートに同じ答えを書いていることに気付き、にっこりと微笑む。


放課後、図書館の静寂を乱すことなく、莉緒は光司の机に向かって進む。彼女がそばに来ると、光司はふと顔を上げる。


「川田くん、さっきの授業、すごかったよ。」


「ああ、ありがとう、春野さん。」


「一緒に勉強しない?」


光司は驚くが、同時に少しだけ緊張感が湧き上がる。それは、新しい数式に取り組む時と同じような感情だった。彼は少し考えた後、ゆっくりと頷く。


「うん、いいよ。一緒に勉強しよう。」


光司がまだ知らないこと。それは、この出会いが彼の人生にどれほど大きな変化をもたらすかということだった。そして、彼がこれから向き合うべき恋愛の数式。それがどれほど複雑で、そしてそれが彼自身をどう変えていくのか。



「数学が解けないなんて、初めてだ。でも、それがなんだかわくわくする。これからの日々が楽しみだ。」

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