植物使いの百鬼夜行

らいお

プロローグ

 ある日の深夜、月明かりのみが地を照らす。

 そんな薄暗い中、二つの影が足音を殺しながら魔植ましょくの森の入口へとやってきた。


「本当に……本当に、この子を……?」

「お前も見ただろ、あの権能ギフトを。あんなものを村の連中に見られてしまえば俺達が村八分だ。そうなる前に、この”忌み子”を……っ!」


 声を殺しながら二人は話す。村人にバレない様に、魔植に気取られないように。

 二人は抱えていたまだ髪も乾いていない生まれたばかりの赤子を、ゆっくりと樹のうろに置く。


「この子は、どうなってしまうの……?」

「さあな……魔植に襲われるか、魔物の餌になるだろう。そうでなくとも、ここいらに近づく人間なんていないんだ、そのうち餓死するだろうな」

「そ、そんな……っ! どうにかできないのっ⁉」

「どうにもできるはずが無いだろうがっ! こんな”忌み子”、育てられるはずが無いっ!」


 二人は苦虫を噛みつぶしたかのような表情を浮かべ、顔を歪める。

 赤子は、樹の洞の中で小さな寝息を立てている。穏やかなものだ。親に捨てられたと知る事も無く、息を引き取るのだろう。


「……さあ、行くぞ。ここにずっといては瘴気に当てられる」

「……分かったわ、行きましょう」


 二人が帰ろうと赤子から離れた瞬間、背後に気配を感じ男は女を庇うべく身を盾にする。


「誰だっ!」


 二人は気配のする方向を見据える。

 すると、小さな粒子が集まり大きな光へと変わり、人の形を形成する――いいや、人の形をした精霊とでも言うべきだろう。

 山藍摺やまあいずり色の腰まで届く髪をなびかせながら現れた精霊は、二人を見据える。

 莫大な魔力を発するその精霊は、訓練していない人間では気圧されてしまう。二人も例外ではない。身を竦ませ、脚はガタガタと震えている。

 その精霊は二人から樹の洞に収まる赤子に目を移し小さく溜息をつく。


『人間よ、貴様らはその赤子が要らぬとでも言うのか?』

「なっ……せ、精霊、なのか……?」

『質問に答えよ。さもなくば――』

「は、はいっ! 俺達は、この子は要りません……」


 威圧に萎縮し、腹の中の物を出してしまいそうになるのを抑え男は言う。この赤子は要らぬと、ハッキリと。


『そうか……あい分かった。であればさっさとこの場を去れ。貴様らに用は無い』


 精霊は冷淡に告げる。

 それを聞いた二人は何度か転びそうになりながらも逃げるようにこの場を去った。


『……さて、如何したものか』


 そう言いつつも精霊は赤子を優しく抱き上げ、まるで子をあやす親のように頭を撫でる。


『親の真似事をするのも、良い暇つぶしになるやも知れんな』


 赤子を抱えたまま、精霊は魔植の森の奥へと姿を消していった。

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