穂妻学園の故事成語 ~完壁~

飛鳥つばさ

毎年二学期の始まりは

 吾輩はロボである。名前は正しくはミケランジェロと言うが、まあミケと覚えていただければ結構。周りもほとんどミケとしか呼ばないし。

 この学園では、毎年9月第一土日が文化祭である。したがって二学期に入ると、いきなり文化祭準備の大詰めとなる。容易にご想像いただけると思うが、学園はどこもてんてこ舞いの大騒ぎである。それは我らがロボ研究会とて例外ではなく。

「よおっし、展示物のディスプレイはこれで片付いたね」

 わがマスター、青空ひまわりが小さな部屋をひとおおり見渡して、汗をぬぐった。おでこに埃だか油だかの跡が付く。

 いつものロボ研究会室、第三コンピュータ室はデスクが作り付けになっているので急なレイアウト変更、広々とした床面の確保が難しい。その上ロボ研のメンテナンス機材一式などもあるし、加えて歴代の会員が収集して持ち寄ってきた、吾輩には価値が理解できない旧式の電子機器もわんさかあるし、で外部のお客様にはちと披露できない。なので例年ロボ研の展示は、回廊モールに面した小さな空き部屋を借りて行っている。

「あとは衣装コスプレ合わせだね。ケイちゃんとリァンちゃんはクラブに戻って。ミケは男の子なんだからここで着替えるー」

「ケイのシリコン丸出しの素体ボディを見せても、特に問題は無いと推察しますが」

「わたしも、マスターと……お兄ちゃんになら見られてもいいかな……」

 陶器のような作り物めいた質感の肌を持つ女性型ロボと、身長30センチそこそこの小さな少女型ロボが、控えめな異論を唱えた。

「そっちは良くても、ボクは良くないの。とくにリァンちゃん。さ、付いてくる」

 マスターはひょいっと小型ロボ――パイリァン――を肩の上に乗せると、ケイ殿を引っ張って展示室から出ていった。ドアをくぐる時、吾輩にアカンベして見せる。

 残った吾輩は、手もとの衣装コスプレをじっと見つめてため息をついた。毎度のこととはいえ、こういう格好は……。

「女三人はまだしも、お前は毎度災難だな」

 吾輩とは異なる衣装を抱えたパイリァンのマスター、トイトイ殿が憐みの視線を向けてくれた。

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