10 異世界ドクターX

「では、オペを始めます。」

ベッドに横たわる女性を見下ろし、オレは動揺を隠せないでいる。


なぜなら『女王陛下』だから。


彼女は現在魔法によって眠らされている。

側近と侍女(じじょ)が息を飲んで見守る中、

こともあろうか女王陛下の腹部にメスを入れようとしている。

冷や汗ものだ。


事の発端は2週間前。

日本という国で外科医をしてた前世の記憶を取り戻したところから始まる。

この世界は医療技術が低い。魔法は存在するが回復魔法がない。

なので、大したことのない怪我でも、こちらの世界では亡くなることが多々ある。


前世の使命が呼び起こされたのか。

怪我人を見つけては、放っておけず治療をして回ることに。

評判が評判を呼び、王宮の耳に入り呼ばれることとなった訳だ。


王宮での頼み事は1つ。

女王を治療して欲しいとのことだった。

彼女は立ち上がれないほどの腹痛に悩まされていたのである。

その症状は直ぐに判明した。

虫垂炎(ちゅうすいえん)。一般に盲腸(もうちょう)と呼ばれる病名だ。

治療法は簡単である。虫垂を切除すればいい。


これがオレの人生最大のしくじりなのだろう。

簡単に治せると口走ったことで、完治するまで王宮に閉じ込められることとなる。

日本であれば機器、薬品、スタッフのどれもが優秀であるため何の心配もいらない。

この世界ではどうだろうか。

実は、腹を開けて処置した前例がこの世界にはないのだ。

逆を言うと、この手術が成功すれば医療革命が起こる事ととなる。

欲が出てしまったのだろう。

結果、簡易的な手術室を作り、今に至る。


ちなみに、今回の手術で利用する医療器具は魔法で作ってもらった。

内視鏡は流石に作るのが難しいとのことで今回は見送ることに。

なので、開腹手術を行う方針に決めたのである。


さぁ、始めますか。

左下の腹部にメスを入れ開口する。


あれ?

あれれ?


見たことのない内臓だ。何だこれ!

なるほど、こちらの世界ではこんな臓器してるのね。


「ごめん、誤診でした。てへぺろ。」

誰も笑みを浮かべてくれない。

ーーー 完 ーーー

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