02 勇者帰還

「やったぞ。帰って来れた。」

そう叫ぶ男は、足元にある直径2mほどの穴から現れた者だ。

公園の草むらに突然開いた大きな穴。驚くことに異世界とつながっている。

彼は元日本人。別の世界で勇者となった者だ。

元居た世界への帰還を模索し続け、ついにこの日を迎えられたのである。

「クー。」

日本語で書かれた公園の看板を見て、拳と歯茎に力が入る。


!?

感動もつかの間、勇者は殺意を感じる。

背後から剣が振り下ろされたのだ。

スレスレで回避し距離をとって相手を確認する。


「貴様だけは許さん。」

そいつは魔族である。相手は幸いにも1体。

同じ時空の穴を抜けてこちらへ来てしまったようだ。

人生最大の失敗である。なぜ直ぐに通路を塞がなかったのか。


目が合った瞬間、両者とも手の平を相手に向けるも魔法が発動しない。

ここは日本。大気中に魔素などある訳がない。

状況は勇者が不利。魔族は剣を持っているのに対し勇者は丸腰だ。

逃げることは許されない。1体といえど大きな被害をもたらすからだ。

勇者は地面を蹴り上げ、魔族の顔面に砂を浴びせる。

怯(ひる)んだところを、剣を握る腕へ蹴りを入れ、剣を奪い取る。

そして、魔族の腹へ何度も剣で滅多刺した。


♪ドサ

魔族は仰向けに倒れ、ピクリとも動かない。


「キャー!」

偶然現場を目撃した女性が悲鳴を上げて走り去っていく。

おそらく化け物を見て驚いたのだろう。


「勇者ぁ~。」

しぶとい、まだ生きてやがった。

魔族が立ち上がったところを両足でドロップキックを食らわし、真後ろの穴へと突き落とす。

続けて、時空の穴を消滅させ完全に異世界とのつながりを絶った。

もう安心だ。


「そのまま動くな!」

振り向くと目撃者と警官2名が立っている。

しまった。魔族をどう説明するか考えていなかった。


「この人です。コスプレイヤーさんをナイフで何度も刺してたのは。」

コスプレ?


警官は勇者の服に付着した大量の血痕を見て確信する。

「遺体をどこに隠した?」


♪ウウー、ウウー。

数台のパトカーもこの場に駆け付けることに。

ーーー 完 ーーー

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