第23話 閑話 イベント後の蓮と沙樹


 「バネ太、今日はありがとな!」

 「それじゃお疲れー♪」



 控室でしばらくの間、今日のイベントについて二人で喋っていたが、時計をチラチラ気にしていた蓮がいそいそと出て行った。


 あっ、……そういう事か!


 俺も、……麻里に会いたくなって来ちゃったな♡


 ヒロインなのに『麻』の字も出さずに三話も放置したからな、いっぱい甘やかしてやろう♡

 そして今回も出番ナシ←更には『麻』は『麻倉とも』で書いてた



 ※※※



 イベント会場から三駅程離れたカフェで沙樹さんと待ち合わせ。



 イベント終わりの興奮がまだ冷めてないのか、それともこの後の事を考えてなのか、どっちでもいーけど心臓がやけにうるさい。


 まだ待ち合わせの時間まで三十分もあるよ、どんだけ楽しみにしてんだ、俺。



 ※※※



 「オイ、バネ太っ! 今日の特別講義、あの『大塚事務所』のマネージャーがやるみたいだぜ! ……イイトコ見せてアピールしたら、声掛けてもらえるかも知れないぜっ!」



 最初に沙樹さんに出会ったのは、俺とバネ太が養成所時代の時に特別講師としてやって来た時だった。


 既に当時の俺達は他の練習生達より抜きん出た存在で、オーディションでちょい役ながらも名前のある役をもらっていた。


 「『大塚事務所』でマネージャーをしています、神谷沙樹かみやさきです。今日は業界のー……」


 背が高く、長い髪を纏めて、眼鏡が似合うクールな人だった……んだけど、


 「ちょ、ちょっとアナタ、赤羽くん? い、今のもっかい言って!」


 「あ〜っ、イイわぁ♡ じゃあ次はねっ!……♡」


 バネ太の声を聞いて態度が急変! 俺の時にはあんなリアクションじゃなかったぞ?


 講義終了後、沙樹さんは、


 「赤羽くんっ、ちょっといいかしら?」


 何やら名刺を渡して、顔に手を当ててクネクネしている。


 ……俺には、何もなかった。


 どうやらバネ太は大塚事務所にスカウトされたらしい。


 それは自分の事の様に嬉しかったし、アイツの『あの声』は人を惹きつける魅力がある。 俺も『あの声』に魅了された一人だ。



 ※※※



 その当時俺は、養成所に通いながら都内のバーでバーテンダーをしていた。


 最近、深夜にフラッと訪れて短時間で帰るモデルの様な女性がいた。

 一言、二言会話をする位で、あとは忙しそうにタブレットをいじっている。


 いかにも仕事が出来る感じのロングヘアが似合う人で、とても良い香りがした。



 そんな彼女が突然、話しかけて来たんだ。



 「ねぇ、……アナタ、声優目指してたんだ」


 え? ……そんな事話したっけ?


 「ふふっ、何驚いた顔してるの?」


 そう言って彼女は髪をまとめて眼鏡をかけた。


 「あっ、『大塚事務所』のマネージャーさん?」


 「『東十条 蓮』くん、でしょ? 覚えてるわよ♪ このまま続けてれば、絶対アナタ声優界でトップを取れるわ! 私が保証するから頑張ってね♪」


 そう言って眼鏡を外し、髪をかきあげた彼女の笑顔に、俺は胸を鷲掴みにされた。


 「じゃ、……じゃあなんでバネ太なんですか? 俺じゃ駄目なんですかっ?」


 思わず身を乗り出して詰め寄っていた。


 「……アナタには手を出すなって堀船ほりふねさんに言われてたのよ! それにアナタは天性の素質があるから、私じゃなくてもやっていけるわ」


 更に続けた。


 「赤羽くんは、『ダイヤの原石』よ! 『あの声』を磨いてアナタとこれからの声優業界を引っ張っていって欲しいのよ ………だからアナタも、頑張ってね!」


 そう言って彼女は笑顔で店を出て行った。


 『堀船』さんは、後に俺が在籍する事になった事務所の社長だ。



 それからも週に一度は足を運んでくれ、話す機会も増えて、……俺はすっかり沙樹さんに心を奪われていた。

 


 ※※※



 そして俺はその後、沙樹さんの言う通り順調にキャリアを積み、念願の声優アワード主演男優賞という栄誉を二年連続で手に入れ、名実共にナンバーワン声優になった。


 バーテンダーを辞めた後も、俺が何かにつけて会う口実を作り食事に誘った。


 主演男優賞を受賞した時、真っ先に報告したら、初めて沙樹さんの方からお祝いにと、食事をご馳走してもらい時計までプレゼントしてもらった。


 その後は、……二人の仲に進展は無く、俺は当然毎日が忙しく、沙樹さんもバネ太の事につきっきりで、たまに現場で会っても挨拶する位しか出来なくなってしまった。


 風の噂でバネ太が声優辞めてコンビニでバイトしてると聞き、現場で沙樹さんに会った時にその事を話したら、『辞めてないし、私はまだ諦めてないからっ!』って泣きながら凄い剣幕で怒鳴られてしまった。


 それっきり連絡も取りづらくなり、疎遠になっていた頃、バネ太が『新しい声』で活動を再開していると聞き、チャンスとばかりにバネ太に声を掛けた。


 バネ太には悪いが、お前を口実に沙樹さんに会える! もうなりふりかまっていられない!


 そんなやましい気持ちでゲストに誘ったら、思いもよらない方向に!


 こうなったら『双魂』も沙樹さんも両方手に入れてやるっ!


 

 「あっ、あと……今夜楽しみにしてます」


 「ばっ、バカっ!」


 ……意識して、くれてるよね?



 ※※※

 

 

 「……お待たせ、早かったのね」


 沙樹さんは、いつも現場で会う時の地味な服装、髪を束ねて眼鏡を……ではなく、髪を下ろして眼鏡を外し、ナチュラルメイクのシックな大人の女性の出立ちで現れた。


 ほんのり甘い香りは、……あの時初めて話をした時につけていた香水だ!


 少し顔を赤らめて、普段の沙樹さんからは想像つかない位にモジモジしながら、


 「まだその時計、持ってたんだ……♪ 今日はお疲れ様、……凄く良かったわ」


 「沙樹さんこそ、俺達に内緒で無茶振り仕込んで大変だったでしょ? 個室、予約してるのでゆっくり話しましょ、沙樹さんっ♪」


 すると、更に顔を赤らめて、

 

 

 「蓮、……『沙樹』でいいわよ」



 第24話につづく♡



 ※※


 あらあら、沙樹さん♡


 あれだけしゅきしゅき言ってたのに……、なんて思わないでね。


 沙樹「追うのもいいけど、追われると弱いのよね、……私♡」


 て事で、次回は『バネ麻里』イベント後のイチャイチャで離れた読者を取り戻すわよっ♪


 ……て事で♡や★、フォローやレビューで盛り上げてねー!


 じゃないとその後の展開は不安しかないから……、お願いっ、ラストまでお付き合い宜しくっ!



 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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