第17話 二人がくっつくなら、あぶれる人も出て来るわよねぇ……。


 「麻里が、……『清澄くん』の作者の『桜蘭舞』さんだったのか?」




 麻里は振り返り、真っ直ぐに俺の顔を見つめて、


 「うん……今まで内緒にしててゴメンね、言ったら……嫌われちゃうと思ったの」


 「麻里のせいなんかじゃないだろっ! お前だって被害者だろっ?」


 「でもっ、でもっ、私が……」

 

 俺は麻里の両手を包み込んで、


 「麻里には、感謝しかないよ! 俺が声優続けられてるのも『新しい声』が出せたのも全部麻里のおかげだ、…………だから自分を責めないでくれ!」


 麻里を見つめて、強い決意を持って続けた。


 「今度は俺の番だ! 麻里の為だったら、俺に出来る事ならなんだってする! ……新作、書こうと思ってるんだろ? 『新しい声』の俺で、書いてくれよ!」



 「……言って」


 ん?



 「もっかい、……言って!」



 俺は大きく深呼吸した後に、麻里の目を見つめて……、



 「『新しい声』の俺で、書いてくれよ!」



 「はあぁっっ、しゅきぃぃっっ♡」


 麻里が俺の胸に飛び込んで来た。


 俺は優しく頭を撫でて、

 「ここのスペース使って書かないか? ここならいつでも麻里が欲しい俺の声、聞かせられるからさ」


 「嬉しい、……ありがとバネ太、…………じゃあ、最初のお願い、……聞いてくれるかな?」


 「ん、……何だ?」



 

 「『協定違反』……しよ♡」




 ※※※



 次の日、案の定特定屋に翔也達の書き込みは丸裸にされ、火に油を注ぐ形になってしまった。


 「オマエら、何やってんだ! バレちまったじゃねーかよっ!」


 事務所では後輩達を立たせて翔也の怒号が響いている。


 「でっ、でも翔也さんがやれって言ったじゃないですかっ?」


 「うるせぇ、口答えするなっ!」


 ドスっ

 ボコっ


 翔也の怒りは頂点に達して、次々と後輩声優達を蹴り上げていった。


 「うぅっ、翔也さん……」

 「ひでぇよ、……翔也さん」


 「チッ、腹立つけど、……ここは大人しくしてるしかないな」


 そう言って翔也は社長室に入っていった。



 ※※※



 「バネ太、……あれから麻里ちゃん大丈夫だった?」


 今日の収録には沙樹が同行していた。

 ペットボトルの水を俺に渡して、心配そうに聞いて来た。


 俺はニヤニヤしながら、

 「それより沙樹こそ、……蓮とどうなったんだよ?」


 「わっっ、私の事はいーのよ! それより麻里ちゃんの正体、分かったんでしょ?


 「えっ、沙樹、……知ってたのか?」

 「うん、社長と顔見知りってのが気になって、あの後社長に聞いたのよ、……社長がね、バネ太が気付いたら麻里ちゃんの事、全力でサポートしてあげてって言ってたのよ! …………麻里ちゃんも大変だったから、……早く復活出来るといいわね!」


 俺の肩をポンポンと叩いた。


 「あぁ、俺の出来る事ならなんでもしてやるつもりだ!」

 

 ん、……なに沙樹その顔?


 「今晩店に行ったら、監視カメラ見ぃ〜ちゃおっ♡」


 「やっ、やめろぉ〜っ!!」



 ※※※



 あの夜から俺達のコンビニメンバーに、新たに蓮が加わった。



 アイツ、かなりのバードスケジュールなハズなんだけど、何故か毎日顔を出す様になったんだよね。←知ってるけど


 早い時は十分で帰って行くが、沙樹の顔が見たいって、本人の前でサラッと言うんだ。


 沙樹も最初のウチは困惑顔で、『私とナンバーワン声優じゃ釣り合わないわ!』(俺なら釣り合うのかっ、沙樹っ!)なんて言ってかわしていたが、男らしく真っ直ぐで、情熱的な蓮に最近はめっきり心を許している。


 そして、……あの夜『協定違反』をした(キスだけだよ!)俺達は付き合い出したが、しばらくの間は内緒にして、今まで通り協定を守っているフリをしている。


 まぁ、天のヤツが俺の事を『亮ちゃん』から『亮たん』に呼び方が変わったのには露骨に態度に出ていたけど、多分バレてないと思う。 ……流石に沙樹は怪しんでるけどね。



 ※※※



 「亮た〜ん♡」


 「私、これから毎週末全国ツアーがあるから、会いに来られないよぉ〜っ! 北海道、仙台、愛知、大阪、広島、福岡で、ラストが東京! …………三ヶ月はここに来れないなぁ〜」

 チラッ♪


 「結構ハードだと思うんだけどなぁ〜」

 チラッ チラッと♡


 「また、……して、くれないかなぁ♡」

 チラッとチラチラ♪


 ピピピピーッ!


 麻里が凄い剣幕でホイッスルを鳴らしているが、そんな事はお構いなく天は俺の前で目を閉じて、まるでヒナドリがエサをもらうかの様に口をパクパクしている。


 ちゅっ♪


 「はぁん♡」


 嬉しそうに目を開いた天に俺はマシュマロを押し当てた。


 むにゅ


 「えっっ、何っ? ましゅま……」


 「天、……ダマす様な事して、ゴメン! こういう事は俺、好きな人としか出来ないんだ! …………気持ちは嬉しいけど、……期待には応えられない」


 「……」

 「……」


 「あははっ、知ってたぁ〜! 亮たんは最初から私の事、……そういう目で見てないもんっ」


 「それに……」


 天は俺と麻里を交互に見て、


 「あの日から雰囲気違うもん、わかるよ、私だって…………、だから全国ツアーに行く前に、ハッキリさせたかったの!」


 涙を流しながら笑顔の天は、


 「これからも、私の事、見守って下さい、亮太せんぱいっ!」


 そう言って、思いっきり飛びついてきた!




 麻里のホイッスルは、鳴らなかった。


 

 第18話にピピピー



 ※※


 「何か、まとめに入ってないか、コレ?」

 「下手クソかよ、サクラン!」

 「もっと天ちゃんで引っ張れよっ!」


 桜「うるっさいわねぇー! ここからはお仕事進めなきゃ、いつまでもしゅきしゅきやってられないのよー!」


 桜「ココで離脱者増えるのだって、最初っからわかってるわよっ!」


 桜「見てなさいよっ! これからデッカい花火、打ち上げてやるんだからっ!」


 ……みんな、離れないでぇ〜っ!←かなりビビってる


 離れるなら♡★、置いてってよね!



 ♪読んで頂きありがとうございました♪

 

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