第5話 1人増えただけでしゅきしゅき言うのは変わらないのよね。


 「サンプル聞かせてもらったけど……いいんじゃないっ! どうしたの? ……ヤル気、戻ってきた? それならゴリ押ししてでもテープオーディション取って来るわよっ! てゆーか、アレ、自分で作ったの? 凄いじゃない!」


 早口で捲し立ててきた。



 すると、イートインスペースの奥から、

 「私と一緒に作ったのよねー、バネ太っ♪」


 今まで大人しくしていた麻里が、ノートパソコンを閉じてこっちに来た。


 麻里は俺が働き始める二十二時になると同時に店にやって来て、イートインスペースの奥を占領していた。


 そこで弁当を食べ、ビールを飲み、……オイ麻里っ、ソコはオマエん家じゃないぞ!


 「マネージャーさん、私、上中里麻里かみなかざとまりですっ! バネ太の事、宜しくお願いします! 私っ、絶対バネ太と二人で『あの声』取り戻すからっ!」


 沙樹は麻里を見て一瞬驚いた顔をして、

 「あっ、あっっ、はい、……私、彼のマネージャーの神谷沙樹かみやさきです」


 そう言って麻里に名刺を渡した。



 「バネ太っ、……ちょっ、ちょっとっ!」


 沙樹は俺の腕を掴みレジの中に連れ込み、しゃがみ込んで小声で言った。


 「ちょ〜っと、何なの アレ? どうしたの、あの子っ! もしかして、かっ、……彼女なの? 私がかまってあげられないから、若い女に乗り換えたのねっ! キィーっ! そーよね、そりゃ若い方がいーわよね、バカッ!」


 俺に喋る間を与えないで、凄い勢いで早口で捲し立てた。


 「かっ、彼女なんかじゃないよ! 実はさ、俺、……もう声優辞めようと思ってたんだ。……このまま居たってさ、若いヤツのチャンスを潰してるし、どっちにしたって俺なんかいずれクビだろっ?」


 そして俺は麻里を見て、


 「そんな中、突然彼女が現れて……、俺の、……『あの声』を取り戻したいって泣きながら言ってくれて……、彼女の為にも最後、悪あがきしてみようかなってさ!」


 俺の話を聞いた沙樹は、

「ふ〜ん、『私の為』じゃないのねっ、……チっ」


 ……舌打ち?


 「……まぁいいわ、それでヤル気になって『あの声』が戻ってくるなら万々歳よ!  でも、……なんか可愛いのが気に食わないのよねぇ」

 

 沙樹はビールをクピクピ飲んでる麻里を恨めしそうに見て言った。


 「それじゃ『武将ファイブ』もだけど、他の作品のテープオーディションも私が何とかするからアナタも準備しておくのよ! 理由はどうあれ、……うん、うんっ、まぁいいわっ!」


 「バネ太っ、……私、嬉しいっ♡」


 そう言いながら、優しい笑顔でハグをしてきた。


 ※※※



 「あ〜っ、何レジの中でイチャイチャしてるの〜っ!」


 それを見た麻里がカウンターに身を乗り出した。


 「最初に言っとくけどねー! 『あの声』は、アナタにも協力してもらうけど、バネ太は渡さないからねっ!」


 ……えっ?


 いきなりの沙樹の宣戦布告だ。

 だけど俺はオマエのモノでもないぞ?


 「そっ、そんなんじゃないですっ! 私は……あの、……『あの声』が好きなだけで別にっ、あっ、でも、でもっ……普通にしてる声も……あっ、あ〜っっ、……しゆきっ♡」


 麻里はクピっとビールを飲み干して、顔を赤くしながら体をクネクネさせていた。


 それを見た沙樹は、ズンズンと麻里の元に近づいていって……、


 オイオイ沙樹っ、いいオトナなんだから、ケンカとかやめろよ!


 酔ってフニャフニャになった麻里の目の前に立ち、両手を掴み……、


 「そうよね〜っ! 普通の声も魅力的なのよねぇ〜、はぁ〜っ♡」


 「ですですっ! 普通の声もいいですっ!! マネージャーさん、私達っ、気が合いますね♪」


 お互いに握り合った手をブンブン揺らし、


 「もぉ〜っ、『さき』でいーわよ『まり』ちゃん♪ じゃあねー、麻里ちゃん、ここはしばらく『協定』結びましょう! 『協定』っ! 

私が居ない間に、バネ太とイチャイチャしない事っ!」


 そして麻里に向かって人差し指をピッと立て、

 「抜けがけは、ナシよっ!」


 麻里はアワアワしながら、

 「イチャイチャなんてしてませんっ! 声が……聞けるだけでいいんです♡」


 その後しばらくの間、俺のあの声、この声と好きな声を出し合っては二人でクネクネしていた。


 ……一体俺は何を聞かされてるんだ?


 そんな中、誰もいなかったハズの店内に滑舌の良い大きな声が響いた。


 「オイッ、おせーぞマネージャー!!」



 第6話につづく〜!



 ※※


 ……結局、しゅきしゅき言って第5話まで引っ張っちゃったわ! 

 そういうトコだぞ! 反省、反省っ♪


 そして遂に、桜蘭舞史上初となる『悪役』登場〜っ! 震えて待てっ!


 「そんなぁ、待てな〜い!」

 「サキマリはホントに協定結んだの〜?」


 そんなアナタはポチっとな、♡を赤く塗って応援コメント書いてほしーな♪



 ♪読んで頂きありがとうございました♪


 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る