第3話 ボイスサンプルを作ろうっ!って感じよねぇ……!


 それからしばらくの間、彼女の無茶振りに付き合うと落ち着きを取り戻したらしく、またビールを飲みながら、


 「えへへっ♡ ありがと バネ太っ♪」


 「私、上中里麻里かみなかざとまりっ、ずっと前からアナタの声、好きだったの! ……あっ、こっ、声っ、声が好きなのっ、勘違いしないでよねっ!」


 真っ赤になって照れながら、更に続けた。


 「自分で言うのもナンだけど、私、かなりの『声フェチ』なのよねー! なんかね、私……、普通の人より聞き分ける能力があるみたいで、一度聞いたらどの声がどの声優さんなのかわかるんだぁ♪」


 何故かドヤ顔の彼女。


 「声色変えてもだよ! 凄いでしょ? だからさー、私と一緒に頑張れば『あの声』取り戻せるんじゃない?」



 (『だから』……とは?)


 そして、さっきまでのボロ泣き女が嘘の様な笑顔で俺の手を取った。


 「じゃあバネ太っ、明日またこの時間に来るからねっ! あっ、あと、……LIME交換、しよ♡」


 何故か俺は言われるがままにLIMEを交換してしまい、明日の約束をさせられた。

 そして彼女は新しくビールを追加して会計を済ませると、


 「じゃあねぇ〜、また明日っ♪ これから一緒に頑張ろぉー、おーっ!」


 彼女、麻里はブンブンと手を振って店を出て行こうとした。


 「『ありがとぅございましたぁ〜』」


 すると麻里はくるりと振り返り、腕を組んで顎に人差し指をつけて、……しばらくすると、


 「そっ、それぇっっ! 第八話に出てくるカラオケBOXの店員さんでしょ〜っ!」


 人差し指をピンと立てて、



 「クレジットにはなかったけど、絶対バネ太って分かるもんっ!」


 グイーン


 「うっっ!」


 麻里は自動ドアに挟まれそうになりながらも体をクネらせて出ていった。


 (何なんだ、……あの子は? 初対面で『バネ太』呼びするわ、いきなり泣いて笑ってグイグイ来て、おまけに『あの声』取り戻すなんて……)


 それでも何故か『あの子と一緒なら何かが変わるのかも?』なんて謎の期待も持たせるあの笑顔が頭から離れなかった。


 深夜まで降り続いていた肌寒い雨は、……もうすっかり止んでいた。



 ※※※


 

 あ、……暑い。


 昨日とは打って変わって、今日は季節外れの暖かさで、夏日を記録した地域が多く見られた。

 

 俺の住んでる地域も例外ではなく、昼間の暖かさが残って深夜でも昨日とは違い肌寒い事はなかった。


 そんな生暖かい夜に彼女、上中里麻里は約束通りにやって来た。

 真っ赤なキャリーケースを引きずりながら……。 何だ、ソレ?


 「『いらっしゃせぇー』」


 麻里はピクッと反応して、


 「コレは『煽り煽られ亜織ちゃん』で亜織ちゃんがトイレ借りに行ったコンビニの店員さんでしょ? 『あ』のアクセントが違うもん♪ はあぁっっ、……しゅきっ♡」


 またも体をクネクネさせて、頬を赤らめている。


 (……おいおい、そんな細かい所までわかるのか? 覚えてないぞ、俺っ!)


 俺は割とドン引きしながらも、麻里にビールを手渡した。


 「コレ、俺からの……奢り、な」


 「……?」


 腕を組み、そして顎に人差し指をつけて考えるポーズの麻里。

 どうやら考える時のクセの様だ。


 「違うって! コレはただの俺の言葉っ、セリフじゃないから! ……てか、これじゃ話にならないだろっ!」


 「えへへっ、ゴメンゴメンっ! つい脳内再生されちゃうんだよねー!」


 ピンク色の口元からペロっと舌を出して自分の頭をコツンと叩いた。


 「それじゃお言葉に甘えて、いただきまぁす!」


 麻里は受け取ったビールを美味しそうに一口飲んでから、キャリーケースに手を伸ばした。


 「とりあえずさぁ、今のバネ太のボイスサンプル録ろうと思って」


 そう言って麻里はノート型パソコンとケーブル、USBマイクを取り出した。


 「今日はひと通り録音して、使えそうな声を割り出しましょう♪」

 

 麻里はイートインスペースに機材を並べ、テキパキと準備を始めた。


 「ちょっ、ちょっと待て待て! 

誰も来ないだろうけど、今、俺仕事中なんだぞ?」


 ……まぁ親父がオーナーだからうるさく言われないけどね。


 そうだな、誰も来ないから逆にココは便利かも知れないよね、うん。


 「まずはサンプル録って、マネージャーさんに渡して、テープオーディションを勝ち取りましょう!」


 (やけに詳しいよな、この子何者なんだ一体……)


 ひと通り準備が出来た様で、麻里は俺を手招きをして、

 

 「『あの声』は……無理だから、うん、それ以外ので三種類位声色変えてやってみよ〜っ♪」


 『正統派イケメン』

 『ドSでオレ様』

 『まだけがれを知らない少年』


 「……こんな感じでどうかなぁ? 

セリフは私が作って来たからっ♪」


 そう言って麻里は俺にタブレットを渡して来た。


 「……」

 「……」


 「……コレ、本当に麻里が書いたのか?」


 完成された台本を読んで、思わず声に出てしまった。


 「そだよー 私、『カク』の好きだった から……」


 少しだけ目線を落として麻里は自嘲気味に笑った。


 ※※※


 「それじゃ、やってみよ!」


 麻里の合図と共に俺は深呼吸をしてマイクに向かった。



 『あはははっ、麻里は本っ当に甘えん坊だなぁ♡』

 『心配しなくてもいいよ、……もう、何処へも行かないから』


 ーー※ーー


 『これからはいつだって麻里の側にいるから安心して眠りなよ』


 『愛してるよ……麻里♡』


 ※



 『オイっ、いいからこっち来いよ! オマエはオレの事だけ見てればいいんだよ!』


 ーー※ーー


 『麻里っっ!』

 『意地張ってんじゃねーよ! ……分かってるんだろ? 自分の気持ち』


 『もうオレ以外、考えられないって!』


 ※


 『ボクは、……このさき、どんなことがあっても麻里ネェのみかただよ!』

 『だって、……いつだってボクのこと、まもってくれたから』


 ーー※ーー


 『おっきくなったら、ボク……』

 『麻里ネェをおよめさんにするんだっ!』


 『それまで……まっててくれる、かな?』



 ……ん?


 ※



 「ぐはぁっっ、いっ、いいわぁぁっっ! はあぁっっ、はあっ♡」


 「しゅっ、しゅきいぃぃっっ♡」


 麻里は頬を赤く染め、息を荒くしながら

 「ハイ、オッケー♪」



 オマエ、……何故セリフに自分の名前入れた?



 第4話に続く〜♪



 ※※


 「桜蘭舞っ、やっぱり麻里ちゃんってオマエだろ?」


 桜「ちっ、違うわよっっ、私ならもっとえっちなセリフを……ゴニョゴニョ」


 「赤羽亮太、上中里麻里……、今回は東京都北区縛りか、オイ?」


 桜「おっ、覚えやすいかなーって!」

  「……私が」


 言いたい事があるなら、コメントして良いのですよ!

 お★さまも置いていって良いのですよ!


 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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