第13話【コーヒーカップ】

早朝からギネス村の宿屋を旅立った俺とアビゲイルは森に挟まれた峠道を歩んでいた。左右が険しい森の一本道である。


もう少し進んだところから森に入ると件の洞窟があるらしい。なのでこの辺はまだ安全地帯である。


俺は水で濡らしたハンカチを頭に被せながら歩いていた。日射しが暑いからである。


「あ、暑い……」


その昔に死んだ日のことを思い出す。あの日もこのぐらい暑かった。


「ひ、日差しで、溶けてまう……』


俺は糞暑い気候に項垂れながらトボトボと歩いていた。


「今度からは日除けのフード付きローブを用意しておこう。直射日光はマジでキツいぞ……」


暑さにへこたれる俺の後ろをアビゲイルが涼しそうな顔でついてきていた。流石はゴーレムだ、暑さなんて感じないのだろう。


それに俺の身形が失敗だった。


俺が着ている洋服は町で着ていたままの身形であった。少し効果で上品な洋服である。生地が厚くて暑苦しいのだ。


冒険者の中で露出度の高い洋服を好むエロエロボディーの娘さんたちがたまに居るが、何故に彼女たちが薄着で居るのかが少し理解できた。


今度からは俺も冒険者らしい身形で冒険に出よう。その職業には職業に合った服が良いのだと始めて理解できた。


「夏は魔法使いならばフード付きのローブだな。ローブを羽織っていれば下は全裸でもバレないだろうさ。それが最大の暑さ対策だぜ……」


そんなことを考えながら峠道を進んでいるとアビゲイルが俺を呼び止める。


『マスター。前方から接近してくる単体が見られます』


「単体?」


俺も峠道の先を凝視した。すると100メートルほど先を誰かがこちらに向かって歩いて来る。だが、その足取りはフラフラしている。何より全裸に伺えた。


「裸だな……」


『全裸です』


「裸のおっさんだな……」


『全裸の中年男性です』


「しかもタプタプに太った裸のおっさんだな……」


『肥満率が高い全裸の中年男性です』


「キモいな……」


『あの肥満率が高い全裸の中年男性が不愉快かどうかを判断できるだけの感情が私には備わっていませんが、おそらく一般常識から推測する限り変態の類いかと思われます』


「明確な観察力だよ、アビゲイル……」


「お褒め頂きありがとう御座います、マスター」


そんな感じで俺たちが話していると全裸の中年男性も俺たちに気付いてこちらに駆け寄ってきた。何やら助けを求めている。


「す、済まない。助けてくれないか!」


タプタプの全裸おやじは口髭を蓄えて頭部はズルっパケていた。しかも目の下には隈を拵えガメツそうな顔つき押している。悪代官を連想させる顔付きなのだ。


「どうした、おっさん。全裸で助けを求めてくるなんて?」


全裸おっさんは必死な表情で言う。


「この先でゴブリンの一団に襲われたんだ!」


「それでも生き残ったと?」


「だが、売り物の荷物も私の服までも略奪されたんだ!」


「それは災難だったな。じゃ」


俺は軽く片手を上げるとその場を去ろうとする。当然ながらアビゲイルも俺に続く。


「おいおい、ちょっと待ってくれ。人が助けを求めているんだから助けてくれよ!」


俺は首を傾げる。


「なんで?」


「なんでって、私のこの成りを見れば分かるだろ!」


「全裸だな」


「だからせめて服ぐらい恵んでくれないか!」


「断る」


「断るなよ!」


「そりゃあ、断るだろ」


「何故!?」


「全裸のキモいおやじを助けたからって俺になんのメリットがあるって言うんだ?」


「町に帰ったら謝礼を払うからさ!」


「はぁ~……」


俺は自分の身形を見せびらかすように言う。


「俺が謝礼を欲しがるほど貧しい身形に見えるのか、おっさん?」


「ならば、貸しってことでどうだ。もしも君に何か問題が起きた時は私が君を助けるからさ!」


「はあ~、しゃあない」


俺は深い溜め息を吐いた後に異次元宝物庫からコーヒーカップを取り出して全裸のおっさんに差し出した。


「これをやるから。これで町まで帰れるだろう」


「コーヒーカップ一つでどうやって町まで帰れって言うんだ!」


「被せる」


「とこに……」


「股間に」


「これだとちょっと小さいかな……」


「嘘つけ、見栄を張るなよ。ちょっと被せてみろ!」


全裸おやじは俺からコーヒーカップを受け取ると股間に被せて見せた。するとスッポリと一物がコーヒーカップに収まった。


「あら、ぴったり」


「だろう。俺の見た目どおりだろ」


しかも全裸おやじがコーヒーカップから手を放してもコーヒーカップは一物から落ちなかった。完璧に嵌まってる。


そして、俺は全裸おやじの股間に嵌まったコーヒーカップに指先で触れると念じながら言った。


「しかもこのコーヒーカップはマジックアイテムでな。念じると熱々のコーヒーが涌き出る機能がついているんだよ」


途端、全裸おやじの股間に被せたコーヒーカップの隙間から熱々に煮えたぎるコーヒーが溢れ出た。ジョボジョボと音を立てて溢れ出る熱々のコーヒーからは熱湯を連想させる蒸気がホクホクと上がっている。


「あっちぃぃいいいいいい!!!!」


悲鳴を上げながらのたうち回る全裸おやじ。その一物が真っ赤に腫れ上がっていたが、その光景はモザイクで隠されることだろう。











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