第39話 下層へ!

 俺はとうとうダンジョンの下層へ来てしまった。


 探索者を目指している間は、下層を主として探索する探索者になることを夢想したものだ。


 だが、実際に下層へ、それも探索者となってこんなにすぐに下層へ行けるとは考えたこともなかった。

 それでもこれが現実だ。

 仲間たちのおかげで、下層までの道のりに難しいところもなかった。


「まったく、しょうちゃんの人望には驚かされるね」


「あたしとしては二人きりで行ってくれるって話だったと思ったんだけどな」


「下層となれば人が多い方がいいじゃないですか。ね、しょうちゃん」


「うん。改めて、集まってくれてありがとうございます」


 頼りになる探索者のみなさん。


 俺の頼みで集まってもらった下層へ向かうためのメンバーだ。

 関先輩、千島さん、えりちゃん。そして、俺の計四人。


:これ、実質最強チームじゃね?

:ここまでのチート持ちなら今日だけで深層ボスも攻略か?

:下層攻略に期待!


 えりちゃんが難しいように、下層配信は数が少ないらしい。

 そんな理由もあって、視聴者が続々と集まってきている。

 流れてくるコメントからは、俺たちへの期待がうかがえる。


 しかし、実際に下層へ降りてみると暗過ぎて何も見えない。


「明かりはわたしがやるよ」


 えりちゃんのスキルが潰れるのはもったいないが、安全の確保は最重要。


 素の身体能力で十分強いえりちゃんに任せることにした。

 えりちゃんのスキルのおかげで、少しずつ視界が明確になる。


 見えてきた感じから、ダンジョンの中はほとんど手つかずなようだ。


:これが下層の世界かぁ

:しょうちゃんがんばれー!

:中層ならなんとか行けるけど、下層って……

:見てるやつらは間違っても行くなよ? 死ぬぞ?


 コメントの反応からしても、未知ということをまざまざと感じさせられる。


 深層まで開放されているような比較的優しめのダンジョンならば、下層でも人の手が入っていることが多い。

 だが、比較的難易度が高いと言われる俺たちが通うダンジョンでは、まだ下層のボスが一度も倒されていない。


:まだマッピングもされてないんだっけ?


「確かに、マッピングはほとんどされていないという話だったが、大丈夫なのかい?」


「はい。俺のスキルで道には迷いません」


「さすがだね」


 俺のスキルは未踏の地でも地図として見ることができる。

 この先はほとんど人が歩いていない道だが、俺にとっては関係ない。

 マップはわかる。モンスターの位置もわかる。


「敵の反応です」


 俺の言葉にすぐさま臨戦体制。


「多分連戦になります。気を引き締めていきましょう」


 全員がうなずいたのを見てから、改めて俺はモンスターに気を向ける。


 曲がり角の先からゆっくりと近づいてきている。

 移動の方向は一定。光に反応したというわけではなさそうだが、確実に俺たちのことを認識して接近してきている。


「え」


 だが、拍子抜けしたことに現れたのは上層にも出てくるようなスライムだった。


 光に反射する表面は、それこそ大差ない見た目をしている。中層のポイズンスライムより怖そうな雰囲気もない。


:弱そう?

:案外下層って楽勝なんじゃないですか?


 俺の知識もコメント欄と同程度。


 これは……


「しょうちゃん。見た目で判断しちゃダメだからね」


「わ、わかってる」


 周りを見てよかった。


 ここに来るまでに多少話は聞いていたが、やはり実物を見ると油断してしまった。


 俺の持つ知識としては、モンスターの見た目が判断材料にならないということだ。

 武器を持っていないからといって近接戦ができないわけじゃない。杖がないからといって魔法を放てないわけじゃない。

 必要な道具をスキルによってその場その場で生成する、またはそもそも必要としなかったりする。


 もちろん、危険な見た目のモンスターもいる。

 実際、目の前のスライムは、初めこそ上層にいるスライムと大差なかった見た目をグニョグニョと変え、まるで人のような形状に変化した。そうして、ユラユラと揺れながらゆっくりと近づいてきている。


「何してくるのかしら」


「データはなさそうだね」


 おそらく相対する経験はなし。

 武器の関係で前衛は俺。

 それに、下手に魔法を打ち込んで何か発動されると厄介らしいから、ひとまず俺が突っ込むことになってる。


「お、俺が出ます」


 攻撃の意思を持った瞬間、スライムの体が高速で俺の方へと伸びてきた。


 一発、二発、三発。

 触手のように連続して迫ってくるがどれも当たるようなスピードではない。


「いける」


 あとは攻撃をかわしながらスキを探すだけ。攻撃を当てるならスキルの発動も必要なさそうだ。


 タイミングを見計らってしっかりと踏み込み、一気に距離を詰めてスライムへと剣をぶつける。


 まずは一発。


 これまでは一発で倒せてきたが、下層でも俺の実力が通じるかどうか。


「にゅゅぅぅ」


 変な音を漏らしながら断面から形が崩れ、スライムはそのままダンジョンへと溶けていった。

 俺の弱体化と思われるスキルがおそらく健在。


 スライムはアイテムへと姿を変えた。


「よし!」


:うおおおおおお!

:倒したあああああああ!

:下層のモンスターを一撃って、ウッソだろおい


 実際にアイテムを確認してから、他の面々の表情から戦闘終了を確認。


 ほっと息を吐いて一時的に緊張を解いた。


「まったく、すごい後輩を持ったものだな」


「い、いやぁ」


「謙遜しなくていいわよ。多分、あたしじゃ同じようにはならなかったから」


「そ、そうですかね?」


「しょうちゃんは自虐気味なんだよ! やっぱり中層へ連れていったのがよかったね」


「あはは」


 まあ確かに、連れ回してもらわなければここまで冷静に対処はできなかったと思う。

 これまでなら、攻撃に対して、相手の実力を高く見積り過ぎて、無駄に硬直してしまったかもしれない。

 だが、少しずつ慣らしてもらったことで、俺も対処できた。のかな?


「慣れと、あとは新しい装備ですかね?」


「そういえば違ったね」


「かわいいけど、おしゃれなだけじゃない?」


「やっぱりいいなぁ。しょうちゃん。かわいいなぁ」


「えっと、はは。これはとても動きやすくて、多分前のだったら攻撃も何度か当たってたと思います」


:女の子だなぁ

:どこで買えるんですか?


「あ、えっとこれは特注なので」


:一流になっちゃったなぁ

:最初から遠い世界だけど、急に遠く感じる


 特注くらいでそんなことないと思うけど、どうなんだろう。


 そういえばいくらだったかは聞いてないんだよな。考えないようにしよう。


「と、とにかく、倒せたってことで!」


:嬉しそうなのかわいい

:笑顔かわいい

「しょうちゃんかわいい」


「な、なにさ」


「照れてるー」


 かわいいと言われるのはやはり慣れない。


 それに、探索はまだまだ始まったばかり。


「気を引き締めていきましょう。モンスターはまだ近くにいますから」

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