第22話 もし、クソ女が被害者面を見せて来たら

「こ、こー君っ……」


「おう、どうした? 言ってみろ、俺が全部解決してやるから」


「じ、実はね……こー君さ、木山君って知ってる?」


「そりゃ知ってるさ。なんせ俺たち二年生のホープだからな、次期生徒会長の噂すらある優秀な男だろう? 同じ学年ならまず知らない奴はいないんじゃないか? で、そいつがどうした?」


「あ、あのね……怒らないで聞いてくれる? 実は私、その木山君に脅されてキスとかされちゃったの。無理やり体を触られたり、写真撮られそうになったこともあって……。でも、怖くて言い出せなくて、それで」


 なんて予想通りの反応だ。ここまで想像通りだと!

 ……それはそれで何か面白くないな。


 若干冷めた感があるが、とりあえず聞いてみることにした。


「何だって? あいつはそういうことをするやつだったのか!? それは許せねえな。だからお前もそんなに泣いてたのか」


「うん。ずっと怖くて言い出せなくって……でも。でも、これ以上は耐えられなかったの! お願い抱きしめて、なんならここでキスして私を綺麗にして!!」


 しかしまあ、自分勝手な女だな。木山に騙されていたことを知った途端に切り替えてきやがった。行動の早さで言えば裕の奴よりも上かもしれん。一緒にするなと言われそうだがな。


「おいおいここは学校だぞ? そんな恥ずかしいことができるわけないじゃないか。もっと学生らしく節度を持った行動ってのをな」


「ちょっとあんた! 芽亜里がこんなに頼んでんのよ? 恥ずかしいとかじゃなくてさ、怖い目にあった彼女のために人肌脱ぐとかしたらどうなの?!」


 おっと、取り巻きまでやってきた。無責任な事言いやがって。


「い、いいの。ごめんね突然、迷惑だったよね? 私たち今までキスもしたことなかったのに、いきなりキスしてほしいなんて」


「お前も混乱してたんだろう? じゃあ仕方ないさ。それよりも確認なんだけど……お前言ったな? 脅されていたって。それってつまりあいつのことは好きでも何でもないってことか?」


「…………好きじゃないよ! あんな最低なことするような人のことが好きな訳がないじゃん! 嫌いだよ! 大っ嫌い!」


 芽亜里は一瞬だけ迷ったが、すぐに大きな声で叫んだ。


「そうか、分かった。じゃあ一つ質問させてもらうが、――これを聞いてどう思う?」


 俺が懐からスマホを取り出し、ボイスレコーダーから移した芽亜里と木山の会話を大音量で流してみせた。



『でも一つだけ――君は殿島君という彼氏がいるのに、それでも僕と一緒にいたいんだね?』


『こー君の事は、勿論嫌いじゃない。けど……けどやっぱりそー君が一番好きなの! そー君がお願いするなら私、こー君とは別れる! また普通の幼馴染に戻ってみせるよ! 大丈夫っ、こー君だってきっと私の気持ちを分かってくれる。だって――こー君はいつも私の頼みを喜んで聞いてくれるもん! きっと大丈夫だよ!』



「……なに、それ?」


 大音量で流れるバカップルの甘ったるい会話。その音声の主である、芽亜里は自分が今何をされているのかも全くわからないように疑問を口にするだけだった。

 ありったけ流した音声は当然だが周りの連中にも聞こえる、聞き覚えのある声が渦中の男という事もあり、顔を見せてくる奴が現れ始めた。


「この声、お前と木山に似ているような気がするんだけどさ」


「え?……あ、ああっ! ち、違うの! こー君これはっ!」


「気のせいかな? 俺にはお前が、木山のことを好きだと言ってるようにしか聞こえなかったんだがな。その上、俺とも別れるって」


「う、うううっ……! き、気のせいだよ!! 他人の空似とかさァッ! よくあることだし!!!」


 必死に取り繕う芽亜里だったが、顔は真っ青になり足は震えている。


「ああ、確かにそうかもな。悪い悪い。声だけで判断するのはおかしい話だよな? 冤罪だってあることだし」


「そ、そうだよ。こ、こーくんの言う通り……」


「じゃあ例えばこういうのを見てさ、――それでもまだそういうことが言えるか?」


 心配する彼氏の顔から一転、冷徹な表情に替えて、俺は木山のデータから抜き取った画像を見せる。


「このうっとりしたような顔で木山にキスをしている女の顔に見覚えはあるか? なあ?」

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