第14話 もし、メイドさんの可愛げが見えたら

 俺は塩味のポップコーンに手を伸ばす。

 俺とらいらの間に置かれたそれ。彼女も俺と同じ考えだったんだろうお互いの手が触れ合ってしまった。

 顔を見合わせる俺たち。ふふ、と笑みを浮かべたらいらに思わずドキッとしてしまった。……恥ずかしいな俺。


「あー……ごめん」


「いいえ、謝らないでください。わたしの方こそ」


 そう言って手を戻すらいらの頬は少し赤かった気がした。




 映画が終わった。俺は余韻に浸りながら感動を噛み締める。

 奇をてらうような展開が無く先の想像がしやすかったが、そこに至るために困難を乗り越える二人の心情や表情、交わす言葉や仕草にぐっと引き込まれた。

 いや正直想像以上に引き込まれた。見てよかったな。

 今度同じ監督の過去作を探すとするか。


「面白かったな」


「はい、とても」


 隣のらいらも満足げな様子だ。

 俺は素直に感想を伝えた。


「無難な感想だけど、やっぱりラストシーンかな? それまで手を握るくらいしか描写がなかったからこそ、溜めに溜めたキスがぐっときたな。それも何が良いって、ほんの一瞬だけのキスが二人の関係性を表しているみたいだったな。何て言うか、それだけでお互いが通じ合えるんだなって」


「わたしも同じ感想です。ごく短い中に、一言では言えない二人の関係の深さが見えるようで」


 らいらと感想を言い合う。

 やれ中盤のあの展開がどうたら、監督の巧みな演出がなにやら。

 なんだろう? こういう時間って楽しいな。お互いに好きなものの情熱をぶつけ合うみたいな? うまく言えないけれど、とにかくすごく充実した気分になる。


 途中からアーリさんも話に加わっていたが。ま、いいか。

 他愛ない会話を楽しむというのは芽亜里と経験済みだが、こういう経験は無かった。来てよかったな。


 今の時間は昼ちょうど。映画を見終えた観客はフードコートに一斉に移動していることだろう。


「何か食べに行くか? って言っても今の時間はどこも混んでるだろうけど」


「いいえ、大丈夫ですよ」


 アーリさんは微笑むと、スマホを取り出す。


「実は、事前に予約しておきました。席数も少ないので、すぐに埋まると思ったのですが運良く空いていました。席取りもしてありますので、このまま向かいましょう」


「お、おお……」


 いつの間にそんなことをしていたのか。俺は驚きを隠せない。

 そんな俺に、らいらが小声で話してくる。


「実を言うと、アーリさんも今回の映画を非常に楽しみにしていまして。終わった後の食事をどうするかなども熱心に調べていたんです」


「へぇ~、クールに見える人だけどな。意外だ」


「ふふ、ああ見えて彼女は可愛いところがたくさんあるんですよ?」


 アーリさんに聞こえないように話すらいら。その横顔はとても幸せそうだ。


「さあ、行きましょうか」


 アーリさんが先導を切って歩き出す。その後ろ姿からは嬉しさを隠しきれないオーラが出ている。確かにこう見ると可愛い人だ。


「よし行くか」


「はい」


 俺とらいらはアーリさんの後を追うように足を進めた。

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