第4話カナ(30)

キッチンにミアが入ってから数日が経過していた。

妹のつまみになる軽食は人気が出始めていて女性客はおおいに満足してくれた。

本日は仕事の悩みを抱えるOLのカナ(30)が来店していた。

そんな彼女の愚痴に付き合うのが本日の会話なのであった。


「マスターって今まで上司がいたことある?」

「いえ。ございません」

「そっかぁ…じゃあこの悩みはわからないかな…」

「上司の悩みですか?」

「まぁそうなんだけど…」

「何事でしょう?」

「男性ってなんであんなに強い言い方するの?」

「それは…困りものですね。本人に悪意はないのでしょうし」

「そうなんだよね。それは分かるんだけど強い言い方されると萎縮しちゃうじゃん」

「ですね。私も柔らかい言葉じゃないと怖く感じることあります」

「男性のマスターでもそう思うの?」

「思いますよ。怒鳴られたりしたら泣きそうになります」

「大げさに言ってない?」

「そんなことないですよ。本当に怒られているようで嫌な気分になります」

「だよね。もう少し言い方考えてほしいなぁ…」

「そう伝えてみればよろしいのでは?」

「上司に?無理だよ…」

「何故ですか?同じ人間同士なんですからはっきりと嫌なことは嫌だと言ったほうが良いのでは?」

「それが出来たらここで愚痴なんて言ってないよ」

「それはそうでしょうけど…ストレスを溜めるのは健全的じゃないですよ」

「そうだよね…どうしよう…」

「言うのをおすすめしますよ。それが無理ならまたここにいらしてください。話ならいくらでも聞きますよ」

「ありがとう。気を楽にして構えておくよ」

「それをおすすめします。もう一杯どうですか?」

「うんん。今日はやめておく。明日は仕事だから」

「そうですか。無理しないでください」

「ありがとう」

そう言うとカナは会計を済ませて店を後にするのであった。

閉店作業をしていると妹のミアがキッチンから店内に現れる。

「一本貰うね」

「身体に悪いぞ」

「喫煙者に言われたくない」

「そうだけど…」

「ふぅ〜。今日もおつかれ」

「あぁ。疲れたな」

「愚痴聞いてて楽しい?」

「楽しくなくても仕事だからな」

「じゃあつまらないの?」

「そうは言ってない。聞くのも良い経験になる」

「実際に体験してないのに?」

「まぁな。何もかも体験することは出来ないだろ?」

「そうだけど…共感しすぎないほうが良いんじゃない?」

「なんで?」

「一緒になってストレス感じそうじゃん」

「そうならない程度に話を聞いて経験にするんだよ」

「ふぅ〜ん。難しそうだね」

「確かに慣れてないと疲れるな」

「そうなんだ。帰ってからご飯食べる?」

「そうだな。コンビニで何か買って帰ろ」

「私が作るよ」

「仕事で料理してたのに?まだしたいのか?」

「まぁね」

「じゃあ頼む」

僕らはタバコを吸い終えると火を消して灰皿に捨てる。

閉店作業を終えると兄妹揃って帰路に就く。

帰宅するとミアは宣言通り手料理を作ってくれるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る