死刑解放都市

無名乃(活動停止)

  

 いつからだろう。

 この“都市”がこうなったのか。


 外に出れば聴こえるのは銃声。

 歩けば死体。


 俺が産まれたときには既に【死刑権】が存在していた。


 元凶は【】。

 それは『死刑権が民衆に解放されてこそ、民主主義は完成する』をモットーとする政治団体。『殺されたくない? だったら、先に殺そう』をスローガンに『万民に死刑権が解放され、危険人物を先に殺せるようになってこそ平和で安全な世界が実現する』と主張。

 そのため、死刑権解放同盟の統治する都市では“あらゆる殺人”が。警察は無意味な存在。女性や子供は銃の携帯を義務づけられ、小学校では『身を守れるように』と【射殺訓練】。


』ではなく『』。


 実際に『危険人物』と――死刑権解放同盟によって判定された人間を射殺出来るよう訓練され、この都市に住む人は“ほぼ人殺し”。



 善よりも悪が多い、その印象しかなかった。



          *



 大学の講義を受けるため電車を乗り継ぎ、講義室に俺は入るとやけに冷たい視線。俺を見てはコソコソと陰口を叩き、見下すような視線で睨まれるが怖くもなんとも無い。堂々と歩き、後の一番端の窓側に腰掛けると俺の隣にくっつくように腰掛ける自称マッドサイエンティストな同級生。


「なぁ、ハヤト。聞いたか? 隣のクラスと美人で有名な女の子。ほら、彼氏居たじゃん。彼氏の浮気が発覚してブチ切れて理性失ってーー危険人物だって彼氏が手を下したらしいよ。やー怖いね。正当防衛とか此処の都市通じんのかね。っか、そんなの存在しないか。ハハッやべーわ」


 マンネリする日常に唯一、釘を刺すように非日常を打ち込んでくる。だが、彼は【死刑権解放同盟】賛成派。しかし、俺は数少ない反対者。

 都市の市民は全面的にを支持。反対者と知られれば『被害者より加害者を大切にする人でなし』と非難される。

 その事から非難されないよう隠していたが俺が全く人を殺さず、銃も持たず、噂を立てないことから同級生は『反対者』だと察したのだろう。知らぬ間に一緒におり、俺の身に危険が及ぶと同級生が俺の代わりに科学の実験。“ネズミではなく人間を扱って殺す”イカれた野郎だが、俺は運良く彼に守られていた。


「ねぇ、ハヤト。その人と話すの辞めなよ」


「ん?」


 同じ講義の学生がさり気なく遠目から俺に声をかける。


「ほら、この人。外の世界から来たって言うし……危ない人かもよ」


 同級生はこの都市の出身じゃない。訳あって此処に来た移住者。“外から来た人間=悪”なイメージがあるのか。さては、下らない【死刑権解放同盟】のせいか。旅行客も移住者も基本この都市には滅多に来ない。


「外から来たからって警戒しすぎじゃないか? 俺は気にしない。寝てたらノート見せてくれるし、ご飯奢ってくれるし……見た目に反していいヤツ」


 なんて俺が言うものだから俺と同級生は【危険人物】ではないが若干クラスメイトや同じ講義の人達からは嫌われている。


「わー嬉しい。もしかして僕に恋してる? 外の世界から来たからってみんな怯えてさ。仲良くしてくれるのハヤトだけなんだよね。ホント感謝だよ」


 教材を取り出すや勢いよく抱きつかれ、「バッカ、お前がそうやって変にからかったり、絡んだりするから引かれるんだろ。分かれよ、アホ」と口喧嘩。すると「あまり酷いこと言うと」。目元に影を怯え、邪悪な笑みで同級生が言うも殺意も殺気も感じず「撃てるなら撃てよ」と煽るやケロッと笑みを浮かべては「へぇ……」と囁く様にワントーン低い声で言っては続けて。


「ねぇ、ハヤト。もうすぐ夏休みじゃん。良かったら外の世界に行かない? 短期移住キャンペーンっていうのがあるらしくてさ。僕とハヤトで応募したら当たっちゃって。おねがーい」


「はぁ!? バカかお前!!」


「何さ。(小声で)外の世界行きたいとか前々から言ってたじゃん。この世界は嫌だって言ってたのは何処のどいつかな? ほら、いい機会だしどんな世界か体験するのいいと思うよ。経験者の僕がいるし。何かあったら


 なんて悪魔の囁きに俺は見向きもしなかったが内心。――興味があり――講義の合間に大学ノートの端に『行く』と同級生に見えるように書いた。

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