第49話 皇宮での軋轢

「日本国から沢山の人が来ていただけること、期待していますぞ」


(うおおおおっ!?)


((凄いヒゲ!!))


 ヴァナランド皇帝陛下に謁見したり。


「こちらが、邪竜を一撃のもとに斬り伏せたと言われる聖剣アスカロンです」


「……ねえだんちき、ウチこれ欲しい」


「もふもふ(非売品です)!」


 数々の伝説の武具が展示されている宝物庫を見学したり。


「!!

 ねえみてだんきち! エルフのお姫様になれるわ!!」


「もふもふっ!?」


「まさかの顔ハメ!?」


「ふふっ、KOBE Cityから寄贈して頂いた変身魔法器具です。

 素晴らしいアイディアですね」


「「なんか満足されている!?」」


 素朴な顔ハメコーナーに驚いたり。


 和気あいあいとした観光案内と撮影が続いていたのだが……。


「…………」


 レセプションを兼ねた夕食会でその事件は起きた。


(く、空気が重い)


 かちゃかちゃ


 食器が触れ合う音だけが響くレセプションルーム。


 ヴァナランドの食材を余すことなく網羅した料理は間違いなく美味しいが……。


 一応の主賓である俺たちの右手側にずらりと並ぶのはワーウルフ、ヴァンパイア、ダークエルフなど魔族に属する高官たち。

 左手側に座っているのは人間、エルフ、獣人、ドワーフなど人間族に属する高官たちだ。


「……おおそうだ、タクミ殿」


 もくもくと食事を続けていると、一人のドワーフ族の男性が俺に話しかけて来た。

 ミーニャさんの話によるとヴァナランド職人ギルドのトップ、らしい。


「あの”だんきち”と呼ばれている強化装備、試作品とのことだが量産の予定はあるのかね? ぜひ我々に供与して頂けると助かるのだが」


「え、えっとですね」


 いきなり難しい話になり、慌てる俺。


「型式番号DK-P003、通称だんきちは様々な機能を実験的に組み込んだワンオフ装備ですからね」


 マサトさんが助け舟を出してくれた。


「コスト、安全性にまだまだ課題が多く……」


(え、そうだったの!?)


 初耳である。


「ですが、ダンジョン庁と協議中のダウングレードモデルは、将来的に一般販売される可能性もあります」


「……期待しておりますぞ」


 マサトさんの言葉に人好きのする笑みを浮かべ、握手までして自席に戻るドワーフの男性。


「…………ち。

 そうして入手したニホン製装備の矛先は我々を向くのかな?」


 ワーウルフの男性が、面白くなさそうに舌打ちする。

 軍の幹部の一人、らしい。


「……ふん、自意識過剰な狼人間が」


 レセプションルームに険悪な雰囲気が漂う。


「そうだわ、アリス・ブラックシップ嬢」


 今度は魔族側からダークエルフの女性がやって来て、アリスに話しかける。

 彼女は皇立魔法研究所の主任研究員らしい。


「……なんでしょう?」


「貴殿とゆゆ殿が披露してくれたそちらの魔法、発動モーションがやけに短く感じたのですが……何か秘密があるのかしら?」


「だんきち……タクミのお陰ですわ」


「!! なんと!」


 ダークエルフの女性の視線がこちらを向く。

 アリス……俺に丸投げしたな。


「確かに、冒険者ギルドの方からも見たことのないバフスキルを見たと報告が……タクミ殿。 ぜひ貴殿のスキルをお教え願いたいのですが!」


 俺に詰め寄り、手を握ってくる女性。


 かちゃん!


「……そして皇宮の屋根を吹き飛ばすのかね?

 40年前のように」


 大臣と思わしき人間族の老人がわざとらしくフォークを皿に当て、発言する。


「あらぁ? 人間族のクセにずいぶん昔のことを気にされるのですね、大臣?」


「寿命の長い貴公らには分からんだろうがね」


「「…………」」


 更に重苦しい空気が流れるレセプションルーム。


「……こほん。

 皆様、客人の前ですよ?」


 リアン様の注意で挑発合戦は収まったが、相変わらず空気は重いままだ。


(タクミおにいちゃん! せっかくの美味しいお料理なのに食べた気がしないよ!)


(種族間の対立……なかなか根が深そうだわ)


 両側からこそこそ耳打ちしてくるゆゆとアリス。


 日本でも会津と長州の遺恨は現代に残っているというし、世界に目を向けると似たような事象はもっとたくさんある。

 協定を結んでわずか十数年でわだかまりが無くなるはずもない、か。


(そうだ。ここで空気を読まずに、ゆゆが「人間もエルフもドワーフも、ダークエルフもヴァンパイアもみんなズッ友! 超しゅきぴ♡」っていうのはどうだ?)


(あら、それはいいわね!)


(ちょちょっ!? この空気でそのムーブ!? いくらゆゆでも無理だって!!)


 真っ青になるゆゆ。

 まあそれは冗談だが……せっかくこの場に呼ばれた俺たちに、何か出来ることはないだろうか。


 その時、俺の頭の中にあるアイディアが浮かんだ。


(……俺に1つ考えがある。

 二人も手伝ってくれないか?)


(ふお?)


(なにかあるのね?)


 俺は二人に向けて頷くと、わざと音を立てて立ち上がる。


「……タクミ殿?」


 部屋中の視線が集まったことを確認し、口を開く。


「皆さん、明日午後に頂いているお時間について提案があります」


 その時間を使って、日本の紹介をすることになっている。


「紹介の一つとして、俺たち日本のダンジョン探索者の演武をお見せする予定なのですが……せっかくなんで、皆さんにも参加して頂いて模擬戦をしませんか?」


「ゆゆチーム、アリスチーム、だんきちチームに分かれてチーム戦!

 優勝チームには日本の豪華景品を進呈!」


「「おおおお?」」


 突然の俺の提案にざわつくレセプションルーム。


(マサトさん?)


(承知した)


 俺の考えを理解してくれたのか、大きく頷くマサトさん。


「先ほどお話ししただんきちの技術供与およびタクミ君のスキルのことも含めて……皆さんに実感していただく機会を設けたいと思うのですが」


「リアン様、よろしいでしょうか?」


 にっこりと笑い、リアン様に開催の許可を伺うマサトさん。


「「おおおお!?」」


 俺たちから直接技術供与が受けられるかもしれない、テーブルの両側に座った高官たちが色めき立つ。


「そ、それは……」


 いきなりの提案に、戸惑い気味のリアン様。

 そんな彼女に更なる一撃を加える。


「リアン様、拳を交えてこそ……種族の壁を越えて分かり合えると思いませんか?」


「!! そうですね!!

 昨日の強敵は今日の友!!」


 日本で呼んだ漫画を思い出したのだろう、ぱっと顔を輝かせるリアン様。


「納得してるし!?」


 ゆゆのツッコミはともかく……急遽明日、チーム別の模擬戦が行われることになったのだった。

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