第34話 タクミ、負傷する
ズズンッ
地響きを立ててクラーケンの巨体が倒れる。
「ふぅ」
ひやひやしたが、なんとか無事にレイドボスを倒すことが出来た。
「もふもふ(”クリーナー・アインス”)」
さっそくクリーナースキルを使い、クラーケンを魔石に昇華させる。
これだけの巨体、撤去するのも大変だからな。
ごろごろ
抱えるほど大きな魔石を管理用エレベータに運ぶ俺。
「ふふ、今回はアリスの圧勝ね」
「むき~、あの魔法は反則だし!」
レイドボスへのダメージ対決はアリスに軍配が上がったようだ。
”よっし! アリスの勝ち!!”
”No1アイドル配信者の座は、もうすぐアリスのものかな?”
”元気なアリスもかわいいけど、大人っぽいアリスもいいな~”
”大きくなったら凄い美人になりそう!!”
盛り上がるアリスのフォロワーに対して。
”今日はなんかいまいちだったな……”
”ていうか、対決と言いながらゆゆとアリスが仲良く連携するのが良かったのに~”
”なんか今日のアリス、感じ悪くなかった?”
”また元気な単独配信してよ!”
ゆゆのフォロワーの反応は微妙だ。
”ゆゆファン、負けたからって「感じ悪い」はないでしょ?”
”アリスはまだ12歳なんだから、キャラづくりのぶれは大目に見て上げなきゃ”
”はぁ? ゆゆに魔法を当てそうになったのがキャラづくりだって?”
”ちょ、ケンカはやめろよ”
荒れ始めるコメント欄。
今日の振る舞いはどういう意図だったのか、まずはアリスに聞いてみるべきかもしれない。
そう考えた俺は、アリスの方へ向かう。
「それでは、使徒の皆様……次の機会で」
「も、もふっ(ちょ、ちょっと待った)!?」
いきなり配信を切って帰ろうとするアリスを慌てて押しとどめる。
その時。
ドガアアアアアアアアッ!!
「うえっ!?」
「……あら」
「もふふっ(なんだ!?)」
轟音と共にフロアが揺れ、今までクラーケンがいた場所に大量の土煙が舞い上がる。
グルルルルル!
次の瞬間、土煙の中から一体のモンスターが飛び出して来た。
「!!」
体長は10メートルほど。
赤銅色の肌を持ち、屈強な腕と脚を持った四足歩行の獣。
びっりしりと牙が並んだ顎からはチロチロと炎が漏れている。
何より目立つのは頭に生えている一対の角。
「馬鹿な!?
レッドドラゴン!?」
「え、タクミっち……ドラゴンって!」
ヴァナランドに生息するモンスターの中でも最強種であるドラゴン。
過去何度も大きな被害をヴァナランドに与えたらしい。
しかもレッドドラゴンは、ドラゴン種の中でもエルダードラゴンに次ぐ強さを持つ。
ヴァナランド政府から退治依頼が出た際は、200階層以深にある特別なダンジョンに誘い込み、国内トップレベルの探索者たちが共同で対処する相手……と言えばそのヤバさが伝わるだろうか。
『タクミ君!
今すぐ二人を連れて脱出してくれ!
レイニさんやダンジョン庁の即応部隊が向かっている!』
「了解です!」
こうなればもう是非もない。
俺はダンジョンアプリを操作し、緊急脱出モードを起動する。
幸い、レッドドラゴンは俺たちを警戒しているのかすぐには襲い掛かってこない。
「へえ、面白いじゃない。
このアリス・ブラックシップの魔法がどこまで通じるか試してあげるわ」
「な!?」
不敵な笑みを浮かべると、マジェを引き連れレッドドラゴンに向かっていくアリス。
ヴィイイイイインッ
彼女の右手に膨大な魔力が収束していく。
「なにしてるのアリスちゃん! 相手はドラゴンだよ!?」
もうキャラ演技をしている場合ではない。
慌ててアリスを止めようとするユウナ。
「邪魔しないで!」
ドンッ!
「きゃっ!?」
駆け寄ってきたユウナを魔力の衝撃波で突き飛ばすアリス。
赤い右眼は爛々と輝き、興奮状態の彼女はどう見ても正気ではない。
「くそっ!」
こうなったら、俺のスキルを使ってアリスの魔力を抑え込む!
そう決めた俺はアリスの元に駆け寄ろうとしたのだが……。
ウオオオオオオオオオンッ!
ユウナを突き飛ばすためにこちらを向いたアリス。
つまりレッドドラゴンに向けて無防備な背中を晒してしまったわけで。
ヤツがその隙を逃すわけなかった。
「危ない!!」
ギャオオオオオンッ!
「……え」
「くっ!!」
アリスとレッドドラゴンの間に割り込み、無我夢中でスキルツリーを展開する。
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☆クリーナー・フンフ
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「!!」
今まで使えなかったはずの、5番目のスキルがひかり輝いているのが見えた。
もうコイツにかけるしかない!
なぜかそう感じた。
「クリーナー・フンフ!!」
俺は夢中でスキルを発動させる。
キイイイイイインッ!
白い光が視界を包み……。
「……え?」
ドシュッ
一体何が起きた?
確認する間もなく全身を激痛が襲う。
「がああああああああああっ!?」
突き出されたドラゴンの爪は着ぐるみの腹を貫通し、俺の脇腹に突き刺さっている。
「タクミおにいちゃん!?」
あまりの痛みと衝撃に、俺は意識を失った。
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