【辻ダンジョン掃除】スキル持ち社畜、うっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう ~スキルが最強進化し彼女の配信パートナーになった俺は幸せライフを満喫しています~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

序章 アイドル配信者との出会い

第1話 社畜とダンジョンお掃除

「つ、疲れた……」


 夜22時、帰宅した俺は部屋に入るなりソファーに倒れ込む。


「……”ゆゆ”の配信だけは、何としても見なければ!」


 落ちそうになる瞼を気合で叩き起こす。


 ダンジョン用具の開発販売を手掛ける明和興業に努める俺、紀嶺 巧(きれい たくみ)は労働基準法違反上等の社畜人生を送っていた。


「今日のゆゆはBランクダンジョンに初挑戦だっけ」


 ”ゆゆ”こと緩樹 悠奈(ゆるき ゆうな)は1年ほど前から活動を始めた美少女ダンジョン配信者である。

 明るい性格と平成後期のちょいギャルJKファッションが大当たりし、ちゃんねる登録者数は150万人。


 押しも押されぬ神インフルエンサーだ。


 たまに投げ銭するだけの底辺リーマンな俺にもコメントを返してくれる天使。

 ちなみに俺は彼女が配信ちゃんねるを開設した時からのファンである。

 古参ムーブをしようとは思わないけどね。


 ピリリリ……ピリリリ……ピリリリ


 明日から久しぶりの連休だし、臨時ボーナスが入ったから今日はゆゆに投げ銭するぞ!

 そう意気込んでいた俺の耳に、無慈悲な会社携帯の着信音が届く。


 スマホに表示されているのは弊社の社長である明和 久二雄(めいわ くにお)の番号。

 出たくないが出るしかない。


「……もしもし、紀嶺(きれい)です」


『オレの電話は1コール以内に出ろや、このウスノロ!!』


 いきなり怒鳴られた。


『”ミスリル銀”と”ドラゴン皮”を大量に仕入れたぞ。

 明日朝一に”ヴァナランド”からお急ぎ便で届くから、”下ごしらえ”をしておけ、分かったな!』


「いや俺は明日休み……」


『分かったな!!!!』


「……はい」


 同族経営である弊社で絶対的権力をふるうパワハラ魔人のクニオさんに逆らえるはずもなく。


「はぁ」


 どうせ休日手当は出ないだろう。

 休みは吹っ飛んでしまったが、せめてゆゆの配信は楽しみたい。


 俺はカップラーメンにお湯を注ぎ、ノートPCの電源を入れた。



 ***  ***


「相変わらず凄いな……」


 ダンジョン攻略配信専門サイト、ダンチューブを開き、ゆゆの公式ちゃんねるに入室する。

 入室者の数字は既に50万人を超えていた。


 ぴこん


「ん?」


 配信開始まであと10分……カウントダウンが流れるメイン画面の上に、小窓がポップアップする。


 最近導入された割り込み配信機能だ。

 お金を払う事で有名配信者の待機時間に短い動画を流すことが出来るらしい。


「どれどれ?」


 こう言う所に未来のスター配信者がいるかもしれない。

 俺は促されるまま動画のリンクをクリックする。


『ダンジョンの回復ポイントで焼肉してみた~!!』


「う”っ!?」


 やけに軽薄な音楽と共に大写しになったのは、髪を赤や青に染め、ジャラジャラと金属製アクセサリーを身に着けた二人組の若者。


『回復ポイントって動かすと熱くなるでしょ? そこで焼肉出来るんじゃねって考えたわけよ!』

『ぎゃははは! こいつヤバ~!!』


 映像が切り替わり、ダンジョン内の光景が映る。


 石造りの床から突き出ているのは高さ1メートルほどの太いポール。

 ”回復ポイント”と呼ばれており、ダンジョン探索者のHPやMPを回復してくれるほか、ダンジョンアプリのIDを登録しておくことでピンチの際はここに転移することが出来る。


 全てのダンジョン探索者にとって大切な設備なのだが……。


『スイッチオン!』


 ヴィイイインッ!


 赤髪の若者が回復ポイントを起動するとポール全体から蒼い光が放たれる。


『それっ』


 もう一人の男がダンジョン内で狩ったモンスターのものと思わしき肉を乗せる。

 血を流して倒れている狼型モンスターの姿がちらりと写った。


 じゅうううううっ


『ぎゃははは、くっさ! こんなの食えねえよ!』

『味付けしてやるから何とか食えよwwwww』


 ばしゃっ


 焼肉のタレがぶっかけられ、タレまみれにされる回復ポイント。


「……はぁ」


 嫌なものを見た。動画を閉じる俺。

 ダンジョン攻略とダンジョン配信の人気が上がるにつれ、コイツらのような迷惑系配信者が増加している。


 ”またコイツらなの? うっざ!”

 ”運営はちゃんとBANしろよ!”

 ”モンスター虐待の罪でダンジョン警察に通報しとくわ”

 ”みんなが使う回復ポイントを汚すとか、信じられません”


 たちまち、沢山の批判コメントが書き込まれる。


 ”え、面白くね?”

 ”なんでモンスターを保護する必要があんだよ! 正義まんウザ!”

 ”彼らも体張ってんだからちょっとくらいいじゃん、固いこと言うな!”


 だが、擁護するコメントも少なからず散見される。

 こう言う層が投げ銭するものだから、迷惑系配信者はいなくならない。


 ”あれ、コイツらがいる場所って今日ゆゆが潜るダンジョンじゃね?”


「ん?」


 コメントを流し見していた俺は、気になる内容を見つける。


「”ゆゆ”が悲しむ姿は見たくないな」


 増える迷惑配信に苦言を呈していた彼女の姿を思い出す。


「生配信を見れないのは残念だけど、ちょっと行ってくるか」


 俺はノートPCを閉じ、”日課”のために外に出るのだった。



 ***  ***


 自転車に乗り家を出て、通りを左に曲がる。

 すぐに巨大な構造物が目に入って来た。


「いつ見ても凄いな!」


 六甲山の山体の半ばを覆い尽くす圧倒的な鉄筋コンクリートの塊。

 ”ダンジョンポータル”と呼ばれるそれは、十数年前に出現した、異世界”ヴァナランド”とこちらの世界を繋ぐゲート。


 ヴァナランドと日本政府の協定により、こちらの人間がダンジョンに出現するモンスターを狩ることになり、ダンジョン探索者と呼ばれる資格持ちが行うダンジョン攻略産業が発展した。


 日本の現代技術とヴァナランドからもたらされる素材と魔法を融合させた装備のお陰で、今では危険が少なくなったダンジョン攻略。

 ゆゆのようなアイドル配信者が台頭してきたのはここ数年の話だ。


「よっと」


 ものの20分でダンジョンポータルの通用口に到着し、馴染みの守衛さんにIDカードを見せる。


「紀嶺(きれい)さん、いつものですね?」


「はい、お願いします」


「それでは、モンスター除けの護符を」


「いつもありがとうございます」


 守衛さんから”管理用アイテム”を受け取り、ダンジョン内の業務用エレベーターへ。


「目的のダンジョンは37層か」


 ダンジョンポータル内は数千階層に別れており、様々なレベルのダンジョンが存在する。ゆゆが挑戦するダンジョンを見つけた俺は、階層番号をコンソールに打ち込んだ。


「早めに”掃除”しないとな」


 俺はダンジョンアプリを開き、自分の”スキル”を確認する。


 アプリに燦然と輝く”クリーナー”の文字。


 ……戦闘には使えない間接系スキルなので、資格は取ったもののダンジョン探索者としては活動できない俺。


 そんな俺のひそかな趣味は、汚れたダンジョンを”掃除”することだった。

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