第20話

「他国との交流会、ですか」


 アークは手の中の紙片へ視線を落とした。

 所属する隊の隊長補佐殿から渡されたのは、来月行われる交流会の警護の任務。自国の学生と他国の留学生で、昼食会を開き交流を図るというのだ。

 勿論、ただの学生等ではなく、それぞれ国の優秀な人材を集めた学院の生徒たちだ。我が国ではプラタナス学院の生徒が参加する。


 そういえば、ラタムが城で開かれるパーティーに強制参加させられると、先月の手紙で愚痴っていたな。

 生徒会のメンバーで後輩想いのあいつは、自分だけ逃げる事も出来ないだろう。


「ああ、子どもの御守りは大変だろうが賞与は弾むから、頑張ってくれ」


 世間知らずのお坊ちゃん達を警護するのか、羽目を外さないように見張るのか、どちらが本当の任務なのか分からないなと思いながら、アークは一礼して退出した。




「ええぇっ、お貴族様のお偉いおぼっちゃん達に、この幻影の魔道具を貸し出すんですかぁ?」


 バックヤードで在庫整理をしているデボラの耳に、ヘラの嫌そうな声が届いた。整理を終えてカウンターへ戻ると、不機嫌そうにぶつぶつと呟いている姿が目に入った。


「っはぁ~、ったく、おぼっちゃん達はイイ気なもんね。

 この幻影の魔道具一個いくらすると思ってんンのかしら。大体、たかがパーティなんかでお遊びに使っていいものじゃないっての。

 今では失われたと言われる昔の大魔法士様が作ったのよ。それを他国のボンボンが来るからってカッコつけちゃってさ。もし壊されでもしたらどうすんのよ」


 一枚の申請書に呪詛を吐く如く恨み節を続けるヘラ。麻手袋を外しながら、デボラも覗き込んだ。


「あ、プラタナス学院の交流会ですね。そういえば、去年も華々しくやっていましたから、一応他国の有力者の子息が参加する行事ですし、外交的な意味合いもあるのかもしれませんね。

 国力を見せつけるのは、外交手段の一つです」


 スラスラ語るデボラに、ヘラは目を丸くした。


「あんた、何やらせてもドン臭い割に、変な事詳しいのね。ああ、お貴族様のガッコだもんね。あんたなら知ってて当然か。

 ま、そういう事なら、このヘレニーア様が整備した、最っ高の状態でド派手な演出かましてやるわよ!」


 なんだかんだと、自慢の魔道具を披露する事は楽しいヘラなのだった。




 とある休日のキュラス伯爵邸。

 薔薇咲き誇る庭で優雅にお茶をするフランとピーチの姿があった。


「で? 最近の伯爵はどうなの?」


 艶々と美味しそうな蜜が輝くカヌレを口へ運び、好奇心で目を爛々と輝かせているピーチ。困り眉でお茶を片手に苦笑するフラン。少し離れた所では、給仕が静かに控えている。


「どう、って。そうね。細やかな気遣いと、贈り物と、お誘いかしらね」


 少しだけ考えるように小首を傾げて、こともなげに言う。ところが、その言葉にピーチは、更に目を輝かせた。


「きゃーっ、お誘い? お誘いって、まあ、色々あるわよね。え、ねえ、あなたまだ三人目だって可能性のある年よ? あら、意外とやるわね伯爵」


「ち、違うわよ。お誘いって、そういうのでは無いわ。その、寝る前に少し飲みながら会話をするとか。そうそう、久し振りにボードゲームもしたわ」


「あら、そうなの。今度、精力のつく手軽な食品も考えているのだけれど、試食として伯爵へ喰らわせてやろうかしらね。

 それにしてもボードゲームとは、懐かしいわね。娘時代には随分とハマったものだわ。あなた強かったわよね。大人しい顔して、地味なプレイなのに気が付いたらいつだって勝ってるんだもの。一度だってあなたに勝てた事は無かったわね」


「ふふふ、ゲームは得意なの。そういう貴女こそ、カードゲームでは負けなしだったでしょう? 随分と手先が器用ですものね?」


「ふふん。当たり前よ。私のイカサマはお父様の侍従仕込みなんだから。昔はお父様も随分と紳士の社交場で鳴らしたものよ」


「ちょっと、ピーチ。私達もう娘時代とは違うのだから。やらかしを子どもの悪戯で許してもらえる時期は過ぎたのよ。まさかいまだにカードのイカサマなんてやっていないわよね?」


「もぉっちろぉん。いやぁね。フランったら」


 あさっての方向を見て、嘘くさくホホホと笑うピーチ。

 まったく、仕方の無い人ね。と、困り眉で笑むフランだった。

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