第33話 開放された週末

 いよいよ週末になり、私たち新入生も王都の街へ出る許可が下りる。

 と言っても王都から出てはいけないのだが、一か月の間、寮の中に押し込められていた新入生たちは皆、許可が下りるのを心待ちにしていた。


 今日は私もハンナに起こされ、朝早くから食堂で皆と待ち合わせをする。


「あれ? ウィノリタ様、朝食を?」


 四人でカフェでモーニングを。という約束をしていたのだが、一人食堂で朝食を食べてる私を見て、テリーとドリューが怪訝な顔で聞いてくる。


「大丈夫よ。ほら、私は皆より多めに食べるから……。ちょっと入れておかないと大変なのよ」

「な、なるほど……」

「ごめんなさいね、はしたなくて」

「い、いえ。とんでもありません」


 本当は食事をするつもりは無かったのだけど、今日のメニューが私の好きなフレンチトーストだったために思わず食べてしまった事などとても言えない。

 甘いもの好きのドリューも私の食べてるものを見て、ゴクリと生唾を飲み込むが、カフェでのランチをかなり楽しみにしている。プルプルと我慢しているのが可愛い。


 やはり他の子たちも王都のカフェでモーニングを食べようという話は多いようで、食堂で待ち合わせ、そのまま外へ出ていく子達も多い。

 中には、男子学生と約束して街へデートに行く約束をした子もいる様で、皆普段とは違うオシャレな格好の子たちが多い。


 アマリアも、いつもに増して……。いや、この子はいつも通りね。イケメンよ。


 私は手早くフレンチトーストを平らげ、立ち上がる。そして久しぶりに学院の門をくぐった。




 新入生も外に出れるようになると、エリーゼも再びバイトを始める。そう考えると、私たちは違うカフェを探すべきかもしれない。

 テリーとドリューが先輩から貰ったという、王都の観光用のマップを片手に街を歩く。二人がエリーゼのお店を選びそうになるのを私が上手くコントロールして、別の店に入る。


「素敵ですね。アンバーストーン領にもこのようなお店が出来てほしいですわ」

「その気持ちわかるわ、王都は何もかも新しいわね」


 きっと前の世界だったら写真を撮ってSNSにアップしたりしたかもしれない。そんな素敵な朝食に舌鼓を打つ。

 エリーゼのお店のようなオープンテラスでは無かったが、大きめの窓からは王城の高い尖塔が見える。殿下はもう王城へ向かったのかしら。そんな事を思う。


「まだ書店は開いていないようだね……。美容室は早くから空いているんだったっけ?」

「そうね、私が行った時もモーニング食べてからだったから、比較的早く開いているんじゃないかな」

「うーん。私も予約しに行こうかな」

「ふふふ。アマリアの髪型は私が指定したい気分かも」

「はっはっは。ウィナに任せたら完全に男装の令嬢にされてしまいそうだよ」

「だって似合いそうなんだもの、ね? 二人もそう思うでしょ?」


 私に聞かれたテリーとドリューもアマリアに遠慮しながらもその通りだと頷く。アマリアは困ったように頭を掻いて苦笑いだ。



 美容院はやはり混んでいた。待合にも人が座って待っており、わたしたちは入ってすぐに受け付けの人に声をかけられた。


「おはようございます」

「おはようございます。今日は予約を入れさせていただきたくて参りました」

「はい、ありがとうございます。ご予約はどなたが?」

「四人、なんですが……」

「四人様ですか? ありがとうございます。ただ、四人様で同じ日ですとかなり先に行ってしまいますが大丈夫でしょうか?」


 やはり予約も混み合っているようだ。私は後ろを向き二人に話しかける。


「二人共別々になっちゃっても大丈夫ね?」

「あ、はい。日にち優先で……」


 と言っても私達が美容院に来れるのは週末の休みの日だ。テリーとドリューが先に予約を入れ、その次にアマリアが予約を取る。三人とも初めてなので入れるところに予約を入れていくのだが、私は以前やってもらった人にお願いしたい。


「あのぅ。以前お店の店長に切っていただいたのですが、また店長にお願いしたいのですが」

「店長ですか? えーっと……。少々お待ちください」


 受付の子は少し慌てたように店の奥へ行く。やがて以前私の髪を切ってくれたあの男性が笑顔でやってきた。


「ウィノリタ様。またいらっしゃって頂きありがとうございます」

「いえ……。名前、覚えていらっしゃったのですか?」

「はい。しっかりと覚えていますよ。うん、そうですね。急がなくてもいいと思いますが、ウィノリタ様もそろそろお髪をいじらせていただいても良いかもしれませんね」


 一度来ただけなのに、名前まで覚えていたのか。この店長流石すぎる。

 店長は私の髪を見ながら答える。


「はい、今日は三人が、私の髪を見てここに来たいと言って。私もついでに予約を入れようかと思いまして」

「なるほど……」


 すると店長は受付の子に尋ねる。


「お嬢様方の予約はいつかな?」


 受付の子に予約帳を見せられながら話をすすめる。


「そうですね……。アマリア様と同じ日にちでしたら、時間も一緒に予約取れますがいかがですか?」

「良いですね。よろしくお願いします」

「はい。かしこまりました」


 私達は予約を入れると店を後にする。


「うわあ。素敵なお店でしたね。私も早く髪を切ってもらいたいです」

「ねえ。そう言えば、アマリア様も先に予約を入れさせてもらっちゃって。申し訳ありません」

「気にしないで。私は二人が理髪店の話をしているのを聞いて興味を持っただけだから」



 私達はそれから王都の街をたっぷりと堪能する。

 ドリューの調べてきたスゥイーツのお店はかなりの数をピックアップしており、私たちは全部は無理だとめぼしい所を選んでいく。

 驚いたことに、そのうち行列を耐えて食べたクレームは、なんと学院の食堂で不定期に提供されるクレープと同じものだった。


 これは話によると、学院長がここのクレープに惚れ込み、必死に口説き落として不定期にはなるが、学院でも提供するようになったらしい。


 そして次は例の小説だ。ハンナに聞くところによると、不思議なことにあの本は、本屋でなく雑貨屋に並んでいるという話だった。

 本屋は、ハードカバーの貴重な高級品を扱うお店で、雑紙を使ったような薄い本は取り扱っていないという形なのだろうか。


 私達は四人で夢中で本を選ぶ。まだそこまで種類が多いわけでは無いが、ハンナがまだ買っていない本を慎重に選んでいく。


「え? 嘘でしょ……」


 各本の前に、その本のあらすじが書かれたポップが張り出されており、それを見ていたドリューが驚きの声を上げる。


「どうしたの?」

「ウィノリタ様、これを……」


 ドリューの指すあらすじを読んでみれば、そこには「魔王と勇者の恋」などという言葉が書かれている。いや、たしかに転生前の日本で似たような話はあったと記憶しているが……。この世界でこの設定はかなりぶっ飛び過ぎじゃないかと思う。


 なるほど、他のあらすじを見ていても、BLっぽいのや、TSっぽいの。日本で見かけたような少しニッチな愛の話等が並んでいる。かなり同人誌的なぶっ飛んだ話が多いようだ。


「す、すごいわね……」


 こう見てみると、ハンナはこの中でも割りとスタンダードな話を選んで買っていたようだ。私たちは気になる本をお互いに買う。私はアマリアがシンデレラストーリーの割とスタンダードなお話をチョイスしているのを横目でチェックした。


 ふふふ、。気に入れば皆また来るだろう。

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