第4話過去



黒崎には幼少期、父親と公園に行って遊んだ記憶がある。公園の砂場で城や他の遊びを楽しんだものだった。


父親の顔は、あまり覚えてはいない。ただ彼はいつも決まった服を着ていた。黒と赤が組み合わさったジャケットをよく身に着けていた。


その後、母親に帰りが遅くなって怒られたこともあった。しかし、それよりもっと大事なことは、その時の楽しい思い出だった。


そして、次に父親は亡くなった。亡くなった原因は黒崎にはわからなかったが、リビングで一日中泣いている母親を見て、自分も泣かずにはいられなかった。


あの時、声をかけていればよかったと幼少期ながら思っていた。


葬式の日、知らない人たちが多くいて、空気はどんよりと重かった。あのような雰囲気はもう二度と経験したくないと、今でも考えている。


葬式の日、長髪の橋本という同い年の女の子が木の根元に座っていたので、話しかけに行った。


「富江ちゃん、どうしたの?」



橋本は髪を掻き分けながら、ゆっくりと答えた。「何もしていないわ…ただ悲しいだけ…それだけなの」


黒崎は重たい心情を抱え、その場に座りながら返答した。「悲しみの気持ちはよくわかる…だけど、その思いに囚われず、少しでも楽しいことを考えようよ」


しかし、彼らの会話はそれが最後となった。翌日、橋本が体をバラバラにされ、川やゴミ箱に投げ捨てられたという知らせが黒崎の耳に届いた。


幼少期ながら大切な人を二度失った……。


意識を取り戻すと、病室のベッドの上にいた。目を左に向けると、同じようなベッドが大量に並んでいた。目を自分の身体に移すと、傷だらけだった。しかし、傷以上に痛ましいのは、母がドラゴンのタトゥーを入れた黒いスーツの男に殺されてしまったという事実だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る