第41話 貴志の想い

俺が泣き止んだ頃、ドアが開き貴志が入ってくる。

秀の姿を見て、安静にしてろと怒り出すが、秀は笑って返事をする。

いつもの光景にホッとしながら、ほんの少しの罪悪感でどう接したらいいのかわからないでいた。

すると、秀がとんでもないお願い事を口にする。

「貴志〜」

「・・・なんだ?」

「俺、あんまりワガママ言わないだろ?」

「・・・・そうだったか?」

「そうそう。それでさぁ、俺、初めてのワガママ言いたい。聞いてくれる?」

「その猫撫で声をやめろ」

「いいじゃん。俺とお前の仲だろ?」

「・・・・それで?」

「ほら、俺、あと2、3日安静で入院だろ?天音も今日の検査結果が良くても後遺症を見る為に、一週間は入院だ」

「・・・・だから?」

「こんな広い個室を二つも取るのはお金もったいないだろ?だから、ここに俺のベットを持ってきて、天音と同室になりたい」

「ダメだ」

「お願〜い。俺、1人暇なんだよ。天音がいれば退屈しないし、天音と安静にして大人しくゲームしてるから!」

「ほら、見たことか。結局は天音とゲームしたいだけだろ?ダメだ。お前はすぐ興奮するから頭の怪我に差し障る。それに、天音と2人やり始めてたら、寝ずに深夜までどころか、朝までやるだろ?それは2人にとって安静ではない」

頑なに反対する貴志を見て、秀はこっそり俺に耳打ちをする。

それからニカっと笑って、貴志にこっち来いと言いながら車椅子をずらし、空きスペースを指差す。

貴志が渋々その場所に来ると、秀はウィンクして俺に合図をする。

俺は顔が熱くなるのを感じながら、そっと貴志の服の裾を指で摘み、言われた通りに上目使いをする。

「貴志くん、俺も秀と一緒がいいなぁ」

甘えた声で貴志を見つめると、顔を赤らめながら卑怯だと小さく呟き、部屋を出ていった。

俺が心配していると、秀は大丈夫と言いながら笑って見せる。

しばらくすると、ドアが荒々しく開かれ貴志が戻ってきた。

「天音が検査に行っている間に移動するぞ」

そういった貴志に秀はやったと大声で喜んだ。


検査している間、秀は引っ越しの邪魔になるからと部屋を出て、貴志の所へ来ていた。天音を待っている間、貴志は念入りにゲームは程々にとか、病院の規則を守るようにとか小言を言っている。

それにハイハイと秀は空返事をした。

それからほんの少し沈黙が続いた後、貴志が口を開く。

「秀、ありがとう」

「なんだよ?」

「俺はお前が友達でいる事をありがたく思っているし、感謝もしている。最初の友達がお前で良かったと心底思っている」

「・・・・なんだよ。聞いてたのか?」

「すまない・・・」

「いいよ。お前には前にもチラッと言ってたし、ちゃんと気持ち伝えて振られたんだから、逆に今は清々しいくらいだ」

「・・・・・」

「やめろよな。お前も天音も俺に気を使いすぎ。気まずくならないように同室をお願いしたのに、なんだよ」

「そうだったのか・・・俺はてっきり・・・」

「いやらしいな、お前。そういや、昔からおませな子供だったな」

「いや、それは・・・・」

「そうだなぁ・・・少しは名残惜しいのかもしれん。でも、俺は本当にお前と天音に幸せになって欲しいし、ずっと友達でいたい。それは紛れもない俺の本心だ。だから、友達でいる為に、俺に気を使うな。そんなんじゃ、やりにくいったらありゃしない。気持ちを伝えて整理するくらい、俺にも許される事だろ?」

「そうだな・・・お前の気持ちはお前の物だ。俺がとやかく言う資格はない」

「そう言う事。なぁ、久しぶりにお前の家のゲームがしたい。昔みたいに三人で遊ぼうぜ」

秀はそう言っていつもの無邪気な笑顔を見せる。

その笑顔に貴志も笑みを溢した。


「なぁーんで、お前もお泊まりなんだ?」

「個室は元より看病しやすい状態になっているんだ。ソファーも倒せばベットになる。それに、何よりお前達には見張りが必要だ」

そう言いながら貴志はテレビを移動させ、岬さんが持ってきたゲーム機を取り付けていく。

「お前、仕事はどうするんだ?」

「ここから通う。着替えはすでに持って来てもらっている」

貴志は片手でクローゼットを指さすと、立っていた岬さんがささっと動き、クローゼットを開ける。

そこにはずらっと並べられたスーツがあった。

「うわぁ・・・これじゃあ、俺達の荷物、入んないじゃん」

秀の呆れた声に、岬さんが心配は無用だと答える。

「別に簡易クローゼットを用意しましたので・・・」

そう言いながら、いつの間にか運ばれてきた縦長の荷物を開け、素早く組み立ていく。これには俺も呆れて、苦笑いした。

それから、三人でゲームを始め盛り上がっていたが、消灯の21時になると強制的に貴志に電気を落とされた。

ブツブツと文句を言う秀に、俺は声を出して笑った。

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