第24話 尊い人間

「私は次期南條カンパニーの跡取りとして、それ相応の教育を受けています。

教育機関での学びの他にも、すでに会社の一部の経営にも参加しています。

今まではただ跡取りとしての義務を果たすために努力してきましたが、今はただ愛する人の為に努力しています。

彼は私の運命の番です。彼を心から愛しています。彼を心から守りたいと思っています。ですので、堂々と彼の隣を歩けるように、アルファのみに与えれる特権を取得する為、来年度は留学を予定しています。全ての工程を終え、帰国した際に婚約発表をするつもりでした。

思いがけず世間を騒がせてしまいましたが、私達は決して犯罪者ではありません。そして、彼はみなさんが言うような差別を受けてもいい人間でもありません。私にとってかけがえのないたった1人の尊い人間です。尊い愛する人なのです。ですので、暖かく見守っていただけると幸いです」

貴志はそう言い終えると、両親達と席を立ち会場を後にした。

その後すぐに秀の携帯の着信音が鳴る。

表示を見た秀は何も言わず、携帯を俺に差し出した。

俺はそれを受け取ると、電話を繋ぐ。

「天音、大丈夫か?」

「・・・うん」

「なんだ?また、泣いているのか?」

「会いたい・・・」

「あぁ、すぐに帰る。待っててくれるか?」

俺は嗚咽を漏らしながら、音にならない声で何度もうんと返した。

その夜は、秀と三人でベットに入った。

ずっと1人で喋る秀に、俺と貴志は相槌を打ったり、笑ったりした。

その間も俺と貴志はずっと手を握りしめていた。

しばらくすると喋り疲れたのか、秀はいつの間にか眠りについた。

騒がしいやつだと呆れながら貴志は笑う。

俺もそうだねと言葉を返して笑った。それから貴志が俺の方へ顔を向け、繋いだ手とは違う手で俺の頬を撫でる。

「天音、愛している」

その言葉に俺も小さく愛していると答えた。そして、触れるだけのキスをして顔を寄せ合い眠りにつく。

俺はまだ一緒にいれると信じて目を閉じた。


苦しい・・・熱い・・・自分の荒い息遣いで目が覚める。

まだ、部屋は薄暗い。

隣にいる貴志に声をかけようにも声が出ない。

すると貴志が異変に気付き、部屋の明かりをつける。

その瞬間、貴志は自分の鼻と口を手で覆いながら、秀を叩き起こす。

初めは寝ぼけていた秀も、何故かすぐに口と鼻を手で覆う。

「なんだ、この甘い匂いは・・・」

「秀・・・すぐにお義母さんを呼んで来い。俺は、この部屋に居られない」

「天音・・・もしかして発情か?ベータの俺にも匂いがわかるぞ」

「いいから、早くっ!お前も匂いがわかるならこの部屋に入るなっ!」

貴志に急かされ秀は慌てて部屋を出る。

貴志は俺を安心させるかのように頭を撫で、階段から聞こえる足音に安堵してベットから這い出る。

「天音、大丈夫だ。すぐに病院に連絡する。俺はそばに入れないが、心配するな。病院に行けば、きっとすぐに落ち着くはずだ」

俺は小さく頷きながら、貴志を目で追う。

そして、貴志と入れ違いに母が入ってくるのが目に入る。

いろんな音や声がするが、苦しくて、体が燃えるように熱くて、その音達が遠くに聞こえた。

自分の中の何かに怯えながら、俺はまた目を閉じ、意識を手放した。

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