第18話 顔合わせ

「き、緊張する・・・」

俺はスーツに身を包み、両親と高級ホテルのレストランにいた。

リングを受け取ってから、まだ一週間しか経っていないのに、貴志が両親に合わせたいと場を設けてくれた。

まだ早いんじゃないかと貴志に伝えたが、すでに留学の準備が始まっていて時間がないと返された。

それもあって、貴志がいない間、何かあった時に両親の助けが必要になるかもしれないと、いない間の事を危惧しての提案だった。

俺は素直にその提案を受け、今日、この日を迎えた。

両親と並んで座る俺の目の前には、貴志が座っている。その事が不思議と俺を安心させる。


「天音のご両親には急に無理を言って申し訳ないです」

丁寧に謝罪する貴志に、両親は大丈夫だと返す。

だが、その表情は俺と一緒で緊張している面持ちだ。

「私の両親は共働きで互いに忙しく、日にちが今日しか取れずにいました。私も会うのは2週間ぶりです」

貴志の言葉に母さんが言葉を返す。

「そんなに会ってないの?」

「えぇ。物心ついた時から両親とはゆっくり会えた事は無いので、慣れています。会えない時は2、3ヶ月会えない時があるんです。ですが、先日まで夏休みだったので、会社の手伝いに行った際に、何度か一緒に食事をしてまして、その時に、天音の事も話してあります」

「そう・・・」

母さんは言葉を詰まらせていたが、きっと寂しい思いをしているであろう貴志を、思っているのだろう。

俺だって、貴志の家に行った時は本人でもないのに、寂しく感じた。

それを察してか、貴志が苦笑いを浮かべる。

「仲は悪くないんです。ただ、2人とも仕事人間なので・・・南條の名前を背負っていると、どうしてもそうなってしまうんです。ですが、私は天音には寂しい思いはさせないと約束します。寄り添って、天音を支えていくつもりです」

真剣な表情で両親にそう答えると、父さんが信じてますと微笑んだ。

それを見た俺は何故か目頭が熱くなってしまった。


「申し訳ない。少し遅れてしまいました」

急に声をかけられ後ろを振り向くと、貴志に似た男性が立っていた。

俺達はすぐに立ち上がり挨拶をする。それから、促されて席に着く。

「父さん、母さんは?」

「申し訳ない、少しトラブルがあって遅れるそうだ」

「そうですか・・・父さん、こちらが俺の番となってくれる深見 天音です。隣は天音のご両親です」

貴志の紹介に俺達は順に自己紹介をする。

終わると今度は貴志の父が挨拶をして、それから食事を運ぶように手配する。

気まずい沈黙の中、遅れて貴志の母親がやって来て軽く挨拶した後、食事を再開する。

こうしてみると全体的に貴志は父親似だが、綺麗な一重の目は母親似だとわかる。

チラチラと見ていると、貴志が気付いて、大丈夫だと言うかのように微笑んだ。


食事が終わり、互いに食後の飲み物が運ばれてくると、待っていたかのように貴志の母親が口を開く。

「天音さんは、高校卒業後は花屋の勉強をすると聞いてますが・・・」

「はい。働きながらいろんな資格を取るつもりです」

「そう・・・ご存知の通り南條という名はとても大きいです。大学に進学して私達の事業を手伝うという事は、視野に入れていただけないかしら?」

「母さん、その話は済んだはずだ。俺は南條という名に天音を嫁がせるつもりはない。天音の人生を楽しんで生きてもらいながら、俺の側にいて欲しいんだ」

「貴志、母さんは反対している訳ではない。ただ、どうしても南條家の一員になるとなると背負うものも大きい。それに、別の事業をしながらだと、私達の目も届かない場合もある。そう考えると、私達の目が届く所で働いた方が安心だと言っているんだ」

「それは・・・」

「天音さん、ご両親、勘違いなさらないで欲しいの。天音さんと貴志の事は反対してないわ。逆になかなか出会えない運命の番に出会えた事は喜ばしい事よ。でもね、南條と言う名は想像以上に大きいの。私も嫁いでからつくづく感じたわ。

ただ、私も知っての通りアルファとしての教育を受けてきたから、苦労もあったけど何とか仕事ができているの。それは、名前も繋ぐと言う意味でも、私を守るという意味でも大事な事なの。だから、一つの提案として考えて欲しいの」

決して刺々しい声でもなく、ただ本当に心配しているかの様な言葉に、俺は黙ったまま俯いてしまう。

それからほんの少し沈黙が続いた。

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