☆第48話 二人の謝罪

「立花。先日の件だが……」


 その声に反応して、小夜子は慌てて若菜の方を振り返る。


 すると膝の上で手を組んでいた若菜が、小夜子に向かって話を続けた。


「私達の問題に、立花を巻き込んでしまった。申し訳ないと思っている」


 自身の両手に向けていた視線を、若菜はゆっくりと小夜子の方に移した。そして組んでいた両手を解き、立ち上がると、小夜子の方に身体を向ける。


「本当にすまなかった」


 そう言うと、若菜は小夜子に深々と頭を下げた。その様子にびっくりした小夜子は、慌てて立ち上がり、若菜の方を見て、こう言った。


「お、お願いです、若菜先生。か、顔を上げてください!」


「私ならもう大丈夫ですから!」と言うと、小夜子は勢い良く両腕をぶんぶんと振り回しはじめた。

 次々と身体を動かし、自分が回復している事を、小夜子は若菜の目の前で猛烈にアピールをする。


 するとその行動に驚いたのか、ゆっくりと頭を上げた若菜が、小夜子に向かってこう呟いた。


「……君は本当に理解し難い人間だな」


「思考回路と行動のパターンが全く読めない」と呟くと、若菜は深い溜め息を付く。


 若菜のその一言に、一気に恥ずかしくなった小夜子は、急に大人しくなると、先程自分が座っていたベンチにそっと腰を下ろした。それに続いて若菜も再びベンチへとゆっくりと腰掛ける。


 しばらく二人して黙っていると、不意に若菜が隣に置いていた小さな箱を、小夜子の前に差し出した。


「夏季から預かってきた物だ。良かったら受け取ってくれ」


 ピンクのリボンがかけられた薄紫色の箱を若菜から受け取ると、小夜子はそっとリボンを外して上の箱をパカっと開いた。


 すると中には黄色いバラや、オレンジのガーベラや、白いかすみ草が箱いっぱいに敷き詰められていた。

 その美しさに思わず小夜子は息を吞む。


「……プリザーブドフラワーと言うらしい。水やりの必要が無い花だそうだ。……夏季がこの花について、延々と色々と語っていたのだが、私にはよく分からなかった」


 小夜子は夏季が若菜にプリザーブドフラワーの説明を、長々と説明している姿を想像した。


 しっかり者で凝り性の夏季の事だ。きっと細かなところまで、プリザーブドフラワーの説明を若菜にしたのだろう。


 そんな二人の姿を想像しているとおかしくなって、小夜子は思わず、ふふふと笑った。

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