☆第26話 降りしきる雨の中

「……立花っ!」

「……立花さんっ!」


 二人が駆けて行った先には、強く降りしきる雨の中、傘も差さずにジャングルジムの前で呆然と立ち尽くす小夜子の姿があった。


「……藤永くん。……笹野くん」

「……お前、何をやっているんだよ!こんな雨の中で!」


 えへへと力なく笑う小夜子に、一瞬カッとなった大賀が小夜子に一喝しようとするのを、明博がやんわりと遮った。


「立花さん、とりあえず移動しよう」


「話は後で聞くから」と言って、自身の差していた傘を小夜子に差し出した明博が、小夜子を公園の中にある屋根付きのベンチの方へと誘導する。


 その二人の後を、「チッ」と舌打ちをしながら大賀が急いで追いかける。


 ベンチまで移動してよく見てみると、小夜子の服は、茶色の厚手のスカートが色を変えるほど、ぐっしょりと濡れていた。上に羽織っている紺色のコートも、水が滴り落ちる程濡れている。


 その様子に、二人は一瞬息を飲んだ。


 こんなにずぶ濡れになるほど、雨に打たれていたためだろう。

 ハンカチを差し出した際に、明博が手に取った小夜子の手は、驚く程冷たかった。


「立花さん、すぐに家に帰って着替えた方が良い」


「家は近くなのかな?」と問いかける明博に、小夜子は力なく頷く。


 その様子に歯痒さを感じていた大賀は、突然大きな声で小夜子を怒鳴りつけた。


「立花、お前馬鹿じゃないのか!こんな雨の中で、一体何をしていたんだよ!」

「大賀、ちょっと落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかぁ!」


 荒ぶる大賀を落ち着かせようと明博が声をかけるが、怒りが頂点を超えた大賀の気持ちは中々おさまらない。


 その様子をぼんやりと眺めていた小夜子が、おもむろに口を開いた。


「……藤永くん、笹野くん。……本当に、ごめんなさい」


 そして次の瞬間。

 

 小夜子の身体が、大きく左に傾いた。


 雨の音が響く公園に、バタンという、小夜子が地面に身体を打ち付ける大きな音が鳴り響く。


「立花っ!?」

「立花さんっ!?」


 身体に激しい痛みが走った衝撃で、小夜子は自分の身体が倒れたのだということを悟った。


 起き上がろうと必死に身体に力を入れてみるが、身体は全く自分の言う事を聞いてくれない。


 目の前は真っ暗で、誰かが何かを叫んでいることだけがわかった。

 だがその声は酷く遠くて、次第に小夜子の耳には全く聞こえなくなっていった。


 そして次の瞬間。

 

 小夜子はふわりと自分の身体が軽くなるのを感じた。

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