有栖川家の執事は高校生!!
春瀬
第1話 有栖川家の執事
九条綾人は目を覚ました――――。
「……ん」
六月一日、時刻は五時。高校生が起きるにはまだ少々早いだろうか。綾人は帰宅部である。そのため朝練があるから早く起きた訳では無い。
まだ朝日が登り始めたころだ。いつも窓から顔を出す太陽に起こされる。無論、雨や雪の例外もまれに存在するが。
しかし今日はまれを引かなかった。いつものように陽光が部屋の一部を照らしている。
「はぁ……」
ここまで陽光について話しておきながら、これを言うのは少しばかりはばかられるが……。実の所、綾人の起床に日光はさほど関係ない。綾人は何があろうと五時ピッタリに起きられる。まるでプログラムされたコンピューターだ。
強いて言えば、日光は綾人のモチベーションに関係するだろう。やはり、太陽が見えると気分も少し明るくなる。
――閑話休題。
なぜ綾人がこんなにも早く起きるのか。それは綾人が一般男子高校生であるにもかかわらず一般男子高校生とは異なる生活をしているからである。
まず、綾人がいる部屋は高校生の一人部屋としては大きすぎる。
例えば天井だが、上に綾人があと二人は余裕で入るであろうスペースがある。綾人は一七七センチあり決して低いわけではない。そんな綾人から見てもこの部屋の規模は異常だ。
どうやら家具も比例して少し大きく作られているようである。その上いちいちオシャレで高そうなものばかりだ。ベッドもキングサイズと呼ばれるものだし、カーテンにも沢山の刺繍とフリルがつけられている。
どこをとっても、綾人の身の丈に合っているとは言えない。
ハッキリ言おう、一般男子高校生の一人部屋としては異常だと――――。
「……よいしょ」
綾人はキングサイズのベッドから上半身をおこした。
まだ意識が朦朧としておりとても瞼が重い。気を抜くとすぐに目がくっついてしまいそうだ。
勇気をだしてベッドから身を乗り出す。立ち上がると少し立ちくらみがした。
――ここからしばらくは割愛させてもらう。
なぜなら、かなり質素であるからだ。面白味にかけるため、語るに足らない。
例えば白湯を喉に通したり、顔を洗ったり、歯を磨いたり。他にも、おにぎりをふたつ食べたあとに軽くストレッチしたり――――。
……一応訂正しておくが、定年退職したおじいちゃんのモーニングルーティーンではない。
ここまでで時刻は五時四十五分――――。
このタイミングで綾人は一般男子高校生から離れた存在となる。魔法がかかったシンデレラのように一瞬で変わる。
始めに、綾人は着替える。その服は高校の制服ではない。仕事着である。
いわゆるモーニングコート。よく燕尾服やタキシードと間違える人がいる。しかしそこには明確に差がある。燕尾服やタキシードは夜の正礼装、準礼装でありモーニングコートは日中の正礼装である。
これらを仕事着としている職種はかなり限られるだろう。少なくとも高校生がバイトとしてやる範疇にはない。
その後ティーワゴンに、紅茶の入ったポットを置いてある部屋へ向かう。
その部屋へ行くにはここから数分歩く必要があった。しかし、そこは違う建物の一室ではない、同じ建物内にある部屋だ。それでも移動に数分を要する、これはこの建物のサイズが異常だということを意味した。
先程、綾人の部屋が大きいという話をした。今歩いてる廊下もやはり大きかった。しかも、廊下の天井は自室とは比にならない高さであった。
天井を確認するために空を見上げる必要がある。綾人が上に何人入る、という換算が不可能なほど距離が空いていた。
廊下の道中にある扉も無駄に大きい。初めて来た時は、巨人でも住んでいるのかと勘違いした。
そしてやはり、例に漏れず装飾も華美である。ほぼ全ての物にアカンサス模様や幾何学模様が入っている。
素材にもこだわっていて、この空間の物は全て触り心地が良い。木も石も金属も何から何まで一級品であった。
この家……。否、御屋敷はとにかくラグジュアリーで囲まれているのだ。
かれこれ五分弱、ようやく目的地である例の部屋に着いた。ティーワゴンを運びながらの移動とはいっても流石に長い。
その部屋の扉をコンコンコンと三回ノックする。
「――………………」
内側から返事は無い。
「失礼致します」
そう、声をかけてから扉をゆっくりと開く。そろそろ何の仕事をしているか気づいた人もいる事だろう。
「お嬢様様、朝で――――」
「……あら、ごきげんよう九条」
「起きていらっしゃったのですか……」
九条綾人は高校一年生――。
そして、有栖川家の執事である――――。
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