幼馴染の許嫁をはぐれ勇者に寝取られてショックを受けましたが、それが僕達にとって本当の冒険者としての始まりでした。

龍淳 燐

第1話 幼馴染で許嫁の彼女を寝取られました。

  僕は一体何を見ているんだろう?

  彼女が勇者である彼の部屋へと消えて、暫らくすると今までに聞いたこともないような嬌声が聞こえてきた。

 まるで吸い寄せられるように彼の部屋に近づくと部屋の扉が少しだけ開いていた。

 そこから覗き込むとカーペットが敷かれた床には彼女と勇者が着ていたであろう衣服や下着が脱ぎ散らかされベットの上で全裸の彼女と彼が抱き合っていた。

 嘘だと思いたかった。

 でも、ここ4~5ヵ月の間、彼女の様子が変だった。

 僕を避けるようになり、クラウンの男性冒険者と良く一緒に居るようになり、さらには過激なボディータッチさえも男達に許すようになっていた。

 何とか彼女と話をしようと試みてはいたが、それは悉くクラウンのメンバーによって妨害されていた。

 そして今日、彼女が他の男に、いや、6ヵ月前にギルドで知り合ったはぐれ勇者のケインに幼馴染で許嫁のリリアが寝取られていたことを知った。


 僕とリリアは生まれた時からの幼馴染だった。

 家は隣同士で、いつも一緒に遊んでいた。

 そして、いつかは二人で結婚しようと教会で誓い合ったはずだった……。

 冒険者になったのは、二人で世界を見て回りたいと思ったから。

 村から領都に出て、ギルドで冒険者になった。

 でも、冒険者になってすぐに仕事ができるわけじゃない。

 ギルドからクラウンに所属して経験を積むことを提案され、今のクラウンの二人で入団した。

 リリアのJobは回復術師でレベル30越えの冒険者に成長している。

 そんな彼女はクラウンからも重宝されている。

 でも、僕は2年経っても何のJobにも付けなかった。

 レベルも1のままだった。

 クラウンからは無能呼ばわりされていた。

 もう駄目だ。

 最愛の幼馴染を寝取られて、冒険者としても成長できず、僕に何が残っているんだろうか?

 何も残っちゃいない。

 クラウンを退団しよう。

 そして、誰も知っている人が居ない何処かの村でひっそりと暮らそう。

 負け犬のぼくにはお似合いだな……。

 この2年間で増えた荷物を処分し、退団届を団長室に出し、リリアに別れの手紙を書いて元自室の机の上に置く。

朝早く、まだみんなが寝ている時間に身の回りのものだけを持ってクラウンの建物から出て行こうとロビーに行くと声を掛けられた。

 「おい、クロード。ちょっと付き合え」

 それは、リリアを僕から寝取った勇者のケインだった。

 僕はケインを信じていたのに、リリアを信じていたのに、何故二人共裏切ったんだよ。

 僕は荷物を持たない右握り拳に力を入れ、乱れる心を押さえ付け、ケインの顔さえ見ずに前を通り過ぎようとする。

 すると、何かに気が付いたのかケインは慌てたように僕の右肩を掴んで、小声で話しかけてきた。

 「待てって,リリアの件で重要な話があるんだ。ここじゃあ話せないから付き合ってくれ」

 そういって、クラウンのロビーから僕を先導するように歩き出した。

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