第17話 とある演劇部員の片想い【解決編?】

「えっ? わかったの?」

「おや、今回は私の出番は無しかな」


 二人の視線が俺に集まる。

 うんうん、いい気分。探偵が犯人を言う時に関係者を集める気持ち、ちょっとわかった気がする。


「はい! ヴェールは部室の中です!」

「ちょっと! 衣装ケースにはなかったから、探して欲しいって言ってるの! 部員全員で探したんだから、見落としたりなんてしてないわよ!」


 高らかに宣言した俺に立花先輩が若干キレ気味につっこんでくる。でも、これも想定内。

 

「立花先輩、違います! 衣装ケースではなく、ヴェールは暗幕の上にあったんです!」

「それはないわね。ヴェールは真っ赤よ。暗幕の上にあったらすぐに気がつくわ」


 意気込んだ俺の答えを立花先輩が速攻で切り捨てる。そうでしょう、そうでしょう。が、ここからが俺の見せ場!


「犯人はあるトリックを使ってヴェールを黒に変えたんです!」

「えっ? どういうこと?」


 驚く立花先輩の顔を見て、俺はついニヤリとしてしまう。

 

「ほぅ。トリックとは面白い。で、どんなトリックを使ったと?」


 先輩も面白そうに俺を見つめる。

 さぁ、ここが最大の見せ場! 俺はドヤ顔で答える。


「緑のフィルムです! 演劇部ならライトの色を変えるフィルムがあるはずです。緑ももちろんありますよね?」

「えっ? えぇ、あるけど」

「犯人は部室の電球に緑のフィルムを貼ったんです。緑は赤の補色。これにより真っ赤なヴェールは黒の暗幕と区別がつかず、部員のみなさんは目の前にあるはずのヴェールに気が付かなかったんです!」


 どうだ! 俺の名推理! 

 さっきティーカップの緑色のラインが夕日に照らされて黒く見えた時、冗談抜きで天啓とはこのことだって思ったね。

 

 と、胸を張る俺を立花先輩が何故か困った顔で見つめている。あれ? おかしい。ここは、すご~い、と称賛の歓声が上がる場面のはずなんだけど。


「いや、それはちょっと」

「モナミ、君の灰色の脳細胞はどうやらお休み中のようだね」

「どういうことですか!」


 困惑した顔の立花先輩と残念そうな目で俺を見る先輩に、思わず食いつく。この名推理のどこに穴があるんだ!

 

「モナミ、考えてもご覧。部室に入って電気を点ける。その電気が緑色だったとしたら」

「あっ」

「さすがに気が付くだろうね」

「……」


 ありました。どでかい穴が。

 そりゃそうだ。部室の電気を点けてそこら中が緑色になるなんて、怪しいにも程がある。


「部室の電気が緑色になっていたら気がつくし、ヴェールはスパンコール付きだからさ」

「……それは綺麗に光りますよねぇ」


 立花先輩にとどめを刺されて、俺は首が折れそうな程項垂れる。


「さて、ところで今回のサロメの主役はもちろん立花だよね?」


 そんな俺を慰める言葉はなく。華麗にスルーして先輩が立花先輩にたずねる。


「いや、そりゃ、主役は立花先輩でしょうよ」


 言わずもがなの質問に俺が答える。もちろん、と立花先輩もうなずく。


「やっぱりね。では、ナラボートは副部長の大宮君だったわけだ」

「ナラボート?」


 また知らない名前がでてきた。多分、役名なんだろけど。と、俺の言葉に立花先輩が不思議そうな顔で答える。

 

「ナラボート? 高等部二年生の春日君だけど、彼がどうかしたの?」

「えっ? 春日? 副部長じゃなくて?」


 やっぱりナラボートは役名だったらしい。でも、先輩は副部長がナラボートって言ったよね?

 

「はい? 副部長って大宮のこと? 彼なら今回も裏方よ。今までも一度も役についたことはないし」

「そうなんですか? 副部長なのに?」

「あがり症なのよ。でも機械にはめっぽう強いから音響とか、照明とか、演劇部の裏方は彼が仕切っているといっても過言ではないのよ」

「へぇ~」


 あがり症なのに演劇部なんて良く入部しようと思ったものだ。まぁ、機械周りが好きなら、そっち方面がやりたくて入部したのかもしれない。

 でも、じゃあ、なんで先輩はナラボートが副部長だなんて言ったんだ?


「立花、演劇部に戻って大宮君に七つのヴェールの踊りは無くなったと伝えてご覧」

「えっ? 何でそんなこと?」


 まぁ、立花先輩が部活に戻れば必然的に話すだろうけど。わざわざ副部長を名指しする理由は?


「近藤君?」


 立花先輩も先輩の言葉の意味がわからなかったらしい。俺の名を呼ぶ顔には戸惑いの表情が浮かんでいる。


「副部長に七つのヴェールの踊りがなくなったと伝えることと、ヴェールの行方に何の関係があるんですか?」

「えっ? だから大宮は関係ないって」


 まだ言うのか、と、立花先輩が呆れた顔になる。


「まぁ、私を信じて言ってご覧よ」

「信じろって、そんな。もうちょっと説明を」


 食い下がってみたものの、先輩は素知らぬ顔でココアを飲んでいる。お茶受けのかぼちゃクッキーをぽりぽりと食べる姿にため息をつく。


「こりゃ、だめですね」


 こうなったら、これ以上の説明は望めない。少なくとも今はもう何も話してくれないだろう。


「そっか。わかった。大宮に言ってみるわ」

 

 諦め顔でうなずくと、立花先輩は家庭科準備室を出て行ったのだった。


 ◇◇◇◇◇


「先輩、どういう事なんですか?」

「内緒。そんなことより、モナミ、文化祭までにサロメのあらすじくらい確認しておきたまえ。ナラボートが誰かも本当は知らないんだろう?」


 そう言ってクツクツ笑う先輩を睨んだものの、二人きりになってもこれ以上、教えてくれる気配は全くなく。結局、その日の研究会活動はお開きとなった。


 *****

 残念ながら近藤の推理は迷推理だったようです。

 次回は正真正銘の解決編です。引き続きお付き合いただけたら嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る