第8噺 シン・桃太郎

昔の昔話

「ほい。遅くなったけど制服のお返し。モモタにプレゼント」


 1年桃組の教室でシンデレラはモモタにプレゼントを手渡した。

 意外と義理堅い奴じゃ。

 そう思いながらモモタが包みを開けてみると、中身は桃のプリントされたパンツだった。

 お尻側がもうプリプリピンクである。


「……おめえ、マジか」


 徹夜の通販で漁っとったのは僕の下着じゃったんかい。

 金欠のくせに、余計なお世話を……。


「マジ卍よ。強そうなオニかわパンツでしょ?」

「悪趣味な桃ふんどしじゃ……」


 モモタが心底困惑していると、


「要らないならオイラが穿くブゥ」


 と、横からストピーが桃のパンツを奪おうとした。

 しかし、すかさずシンデレラブロック。


「あんたみたいなビッグヒップが入るわけないでしょ~。超ナンセンスなんですけどー」

「何だとブゥ。またおまえのおしり爆発させてやろうかブヒー!」


 ふたりはメンチを切り合った。

 人と豚は犬猿の仲らしい。


「こうなったら、『王様、姫様、豚、乞食』で決着つけるブゥ」

「え……私の地域では『天国、地獄、大地獄』だったわよ?」


 とこんな感じで、今日もおとぎ学園は平和なのでした。


「チッ、おまえらうるせえぞ」

「集中できないトン」


 こちらもこちらで、ブロピとウドは将棋の対局をしていた。

 負けたほうが購買の肉まんを奢るという闇将棋である。

 あまりの緊張感にブロピの駒を挟む2本の豚指が震えていた。

 その横で、赤ずきんは考え事をする。


「じゃあモモタお兄ちゃんは、どんなパンツが欲しいんだし……?」

「プレゼントしたいのかな、赤ずきん。じゃあ今度の休み、ぼくと一緒に選びに行くんだ」


 勘弁してくれハスキー。

 モモタは辟易した。

 そもそも、なぜ僕にふんどしばかりを寄越すんじゃ?


「モモタにゃん。今度、吾輩が手作りの毛糸パンツを持ってくるのにゃん」


 主人思いゆえに重いビョーキだった。

 毛糸パンツて……僕は女子か。

 モモタは呆れ果てて窓の外を眺めると、ハックと首なし馬がグラウンドのトラックで早朝ランニングをしていた。

 気持ちのいい朝だった。

 すると、そこでアマテラス先生が入室した。

 やろうと思えば、彼女はこの教室まで瞬間移動できるはずだ。校内限定だが。

 しかし先生は生徒同士の時間を大切させたいらしい。


「はーい。全員席についてください。HRホームルームを始めますよ~」


 アマテラス先生は順次生徒の名前を呼んでいき、出欠簿にチェックを入れていった。

 今のところ欠席者はなし。

 ハックと首なし馬は遅刻。


「みなさん、おはようございます。ではさっそくですが、この時間を使ってとある問題をみんなで一緒に考えてみましょうか」


 そう言って、アマテラス先生がカツカツと黒板に何やら書き始める。

 途中まで見て取り、モモタは無性に嫌な予感がした。


《問4.鬼ヶ島で桃太郎が鬼を退治したときの気持ちを答えなさい》


 アマテラス先生は正面に向き直ると、生徒のうちのひとりを見つめた。


「モモタさんはどうして鬼退治に行ったのですか?」

「…………」

「日本一の力を誇示したいがためですか? それとも金銀財宝ほしさにですか?」

「金銀財宝!?」


 目をキラーンと輝かせるシンデレラは鼻血を噴き出しそうなほどに興奮していた。


「……おめえはヨダレを拭けぇ」


 と言ったものの、モモタは二の句を継げずに先生を反抗的に睨むことしかできなかった。


「モモタさん、どうしました? そんな鬼のような顔をして……もしや反抗期ですか?」


 アマテラス先生は嫌らしく微笑む。

 クラスメイトの視線はモモタに集中していた。

 モモタはそっぽを向いて隣席のシンデレラのスマホを見つめる。その稲妻のように光り輝く画面に吸い込まれるがごとく追憶する。


 思い出したくもない昔話を、今更ながら思い出す。

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