3匹の子ブタはいかが?

 レンガの家の住人は、3匹の子ブタだった。しかも二足歩行だ。さらに色違いのお揃いのオーバーオールを着ている。

 シンデレラはホッと一息吐くと、途端目の色を変えた。


「もうすこしで、死ぬところだったじゃない! このブタァ!」


 どストレートである。


「命拾いしただけ感謝するブヒよ」


 1匹のブタはフガフガッと笑いながらそう返した。

 そのブタは部屋の中だというのに麦わら帽子を被っている。オーバーオールのカラーは黄色。


「へえ、あんた喋るブタじゃん! すっごーい!」


 物珍しそうにシンデレラはスマホを構えて、写真に収めた。


「こっち向いてピースしてみぃー」

「イエーイ、豚足ピース! ――って、なにさせんだブヒー!」


 麦わらのブタは激怒した。


「なによ、やんの!」

「やるブヒー!」


 シンデレラと麦わらの子ブタは取っ組み合った。

 その傍らで、黒のシルクハットを被ったブタがモモタに話しかけてきた。

 オーバーオールのカラーは黒色。


「てめえらはどこから来た? 何者なんだ?」

「僕たちは大樹の森の向こうからやって来た、おとぎ学園の生徒なんじゃ」


 正確には、赤ずきんやハックはまだ生徒ではないが。


「僕はそのおとぎ学園・1年桃組・出席番号・第1号――桃から生まれた、日本一の桃太郎じゃ」

「ニッポン? 俺たちの指の本数をからかってんのか?」

「違う。そういう国名くにななんよ」


 そして正確には豚は4本指の偶蹄類なのである。


日出ひいづる国から、僕は参上つかまつったんじゃ」


 言って、モモタは『日本一』と書かれた旗を見せつけた。


「ますます信用ならねえな」


 シルクハットのブタは含みありげに笑った。


「陽の射すところには必ず陰があらわれるもんさ」


 鶏が先か、卵が先か。

 しばし、モモタとシルクハットのブタは無言のままにらみ合ってから「まあいいぜ」と、そのシルクハットブタは豚足で二重アゴをひと撫でした。

 続けて、モモタは他のメンバーの紹介も請け負う。


「そっちで仲良う相撲をとってるのが、シンデレラ」


 そこでちょうど、白黒決着を付けるために取り組みが開始された。

 西――神萌裸シンデレラ

 東――藁富士ストローフジ

 両者、塩をまき、位置に付く。


 ――はっきよい、のこったのこった!


「そっちのメイドは長靴を履いた猫。名前はまだない。それで気絶してるのが赤ずきん。そして白馬のハック」


 モモタが紹介したメンツをシルクハットのブタはひと嘗めにする。

 それから自分たちの紹介をした。


「俺たちは子ブタの三つ子兄弟――職業は建築家だ。そっちで相撲とってんのが、末っ子のストローピッグ。通称ストピー」


 紹介に与ったストピーとシンデレラの大一番。

 がしかし、立ち会った瞬間にあっさり決着はついた。

 藁富士は神萌裸の黒タイツにガシッと手を掛け「ブゥー!」と、思いっきりぶん投げた。

 ビリビリーッと黒タイツは破けて、うら若き乙女の真っ白な太ももが露出する。華奢な神萌裸はデレる~んと宙を舞って、もはや死に体。床に堕ちた神萌裸は後転に失敗したような恰好になり、両足は顔の真横。ご開帳のおっぴろげ。乳白色のパンティーがお目見えした。

 そのご神体に向かって、藁富士は手刀を切った。


「こんな体を張ったおもれー画になるんなら、スマホで動画を撮っておくべきだったんじゃ」


 モモタはこの世界に来て、もっとも激しく後悔した。

 まあスマホ持ってきてないし、よしんば持っていたとしても撮りかた知らんけどやー。

 勝者、藁富士。

 決まり手は黒タイツ破り投げ。


「そして今、湯を沸かしてんのが、次男のウッドピッグ。通称、ウドだ」


 何食わぬ顔でシルクハットのブタは、部屋の奥にいるブタを紹介した。

 大木のようなウドは火の番をしながら「いらっしゃ~い」と、温かく迎え入れた。緑色のハンチング帽を被り、口端には小枝を咥えている。枝の先にちょこんと葉っぱが揺れていた。オーバーオールのカラーは緑色である。


「今日はたくさんお客さんがいるトン。もしかして、パーティーでも開くト~ン? せっかくだし、オオカミくんも呼ぼうか~?」

「そんなことしたらウド、俺たちがパーティーの食材になっちまうだろ……」

「しょくざい? あんちゃん、神様にでも祈るトン?」

「ウド……贖罪じゃなくて、食材だ」

「それはまずいトンね~。ポクたちが供物になっちゃうト~ン」


 なんだかウドと話してるとウトウト眠くなってくるんじゃ。

 夢でも見ているみたいだとモモタは目をこすった。

 そして満を持して、シルクハットのブタは豚足で自身を指した。


「俺は長男のブロックピッグ。ブロピと呼んでくれ」


 なんやカッコイイ響きやな……ブロピ。

 モモタはちょっと羨ましかった。


「ちなみに、このレンガの家は俺が建てたんだぜ」

「ひとりで……ちゅうか、1匹でか?」

「そう、1匹でだ。こう見えても、俺は一級建築士だからな」


 モモタは家中を見渡して感心していると、ある一点で目が留まった。


「あのブタ、人間様に楯突いてきたわぁ~。ブタのくせに、タブゥーを犯しやがって~」


 ゴキブリのようにひっくり返っていた無様なシンデレラはカサカサとネコメイドに泣きつく。

 人間様のくせにネコに慰められていた。

 人に楯突くのはあかんのにネコに泣きつくのはええんか。

 モモタが渋く思う。

 とそこでブロピは残念そうにかぶりを振ったのち、末っ子に水を向けた。


「本当は弟たちの家もあったんだがな……。なあ、ストピー?」

「そうだブヒー」


 取り組みでいい汗を流したストピーは、床に落ちた麦わら帽子を被り直した。


「オイラの家は藁で造ったブヒ」


 そこでモモタはピンときた。

 そういやここに来る途中に大量の藁が散乱しとったな。


「それなのに、オイラが丹精込めて造った家をあのオオカミに一息で吹き飛ばされたブヒー」


 あいつの肺活量まじハンパないブゥ。

 と、ストピーは嘆息した。


「そして命からがら、あんちゃんの家に逃げてきたんだブヒ……」


 一息で家を吹き飛ばすとはオオカミ少年の戦闘力の高さが窺えた。

 それともただ単に藁の家が軟弱だったんか?


「すると、そのあとすぐにウドの奴もレンガの家に駆け込んできたんだよな」

「そうトンよ、あんちゃん」


 ウドは頷いた。


「ポクの家は木の家だったトン。今日の昼間、ポクは暖炉の世話をしたあと、うたた寝していたトン。そうしたら、オオカミくんの遠吠えが聞こえてその声で慌てて飛び起きたら家全体に火の手が回ってて……あえなく全焼したトン」


 ウドは表情を暗くさせた。

 これが家が全焼したときの表情か。

 こちらの木の家もモモタたちが道中見かけた焼け跡とみていいだろう。

 だったらなぜさっき、ウドはオオカミ少年をこの家に招待しようなどと言ったんだろう。

 もしかしたら、ウドはめちゃくちゃ馬鹿なのかもしれん。

 モモタは余計なお世話だが心配になった。


「あやうく、豚の丸焼きにされるところだったトンよ~。そしてポクは命からがら逃げ出して、あんちゃんの家にたどり着いたトン。あの首なし馬に追いかけられるのはほんと怖かったトンなぁ~」


 つまり、三男ストピーと次男ウドの家が全壊した時刻はネコメイドとオオカミ少年が戦闘した後ということになるんか。

 モモタはひとり頷く。


「オイラたちは雑食ブヒ。オオカミの奴も自分ばかりが捕食者だと油断してたら釜茹でにして食ってやるブゥ」


 三男のストピーはそういきり立つと、オーバーオールの肩掛けに豚足を引っかけながら言う。


「手始めに、その白馬、桜鍋にしていいブゥ?」


 ただならぬ殺気を感じ取ったハックは


 「ヒヒーンバフフン!」


 と、モモタの背中に隠れた。

 すかさず、ネコメイドが訳した。


「その馬鹿ブタどもをとんこつスープにしてやれ! ――って、言ってるにゃん」

「そーよ、そーよ。このクソ雑魚ナメクジィ!」


 ここぞとばかりに、シンデレラは加勢した。


「さっきから人間のくせに生意気だブゥ。また相撲とって決着つけてやるブゥ!」


 のっそのっそと、ストピーの魔の手が美少女に迫りかけた、まさにそのとき――


「ワオオオオオオオオオーン!」


 と、遠吠えが響いた。

 それは窓や家具がガタガタと揺れるほどの震動だった。

 瞬間、部屋全体を緊張感が包み込んだ。

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