第4話 昭和の家と美女


 道で会ってから、夫人の方は食事の差し入れを控えていた。若い二人の邪魔をしたくはなかったからだ。だが、彼の方から

「数日後から家を空けるので、ここで食事をしませんか? 」

という招待の電話があった。彼女がいるかどうかはわからないが、料理とお菓子を持って、夫妻は彼の家へと出かけた。


「いらっしゃい、どうぞ」


 玄関で久しぶりに間近で会う彼は、どこか成長した様な雰囲気だった。そして飾りのない、シンプルだがおしゃれな感じの女性の靴が一足、男女のトレッキングシューズも隅にあった。二人が靴を脱いで上がろうとした時、古い日本家屋特有の「キイ」と小さな音がした。夫妻はその方向をぱっと見た。


「あの・・・・・彼女の・・・・・」

 

 彼はもごもごと名前を言ったのであろうが、夫妻にはそれが聞こえなかった。聞こうと思わなかったのかもしれない。


それよりも目に飛び込んできたもの。


マスクをつけていない、二十歳過ぎの一人の若い女性、肌は北国の子供のように白く、キメも細かく、頬は桜のような薄い上品な色で、まるで赤ちゃんのようにとても柔らかな肌質に見えた。

そして頭を下げて再び上げられた時の瞳は、大きく、肌とは違い、しっかりとした存在感があった。


「カラーコンタクトをしているのかも」とふと妻は思ったが、それは間違いであるとすぐに気が付いた。

なぜなら少しだけ開いた唇は、決して鮮やかな色ではなく、それでいて完全に左右対称の美しい輪郭であったからだ。

美人と呼ばれる人はことごとくそうであろうが、この女性は機械で作られた人形のような、完璧なシンメトリーであった。しかもノーメイクであるから、小学生の美少女のような清純さがあり、一方では落ち着いた、大人の、楚々とした雰囲気を持っていた。


「君が側にいて、微笑んでいてくれるだけでいい」

きっと、この国の多くの男性が望むもの全てを持っている女性であるに違いなかった。


二人は言葉としてそのことを発することも、動くことも出来ずにいると

「とにかく、どうぞ上がって下さい」

と彼に言われるがままに行動した。


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