第21話 コンニャ、いや婚約だそうです

 部屋に入った僕とメイビーは既に部屋に居たマリアさんとマリーン【オネエ】さんに出迎えられたんだけど、


「あっそうだ、二人には先に言っておくわね。私とマリア嬢は婚約したから、よろしくね。良かったわー、私、妹が欲しかったのよねー。メイビー嬢が妹だなんてとても嬉しいわ」


 ってサラッと発言しやがりましたよ、このオネエが!?


「えっ!?」

「エエーッ!?」


 先が僕で後がメイビーの驚く声だよ。で、そのままマリアさんを見ると普段の様子とは全然違っていて、乙女オトメになっていらっしゃる……


 うん、まあ確かにマリーン【オネエ】さんはイケメンだけど、この口調は大丈夫なのかな? 僕は思わず内心を口走っちゃったよ。


「マリアさん! 早まっちゃいけませんっ!!」


 するとすかさず飛んでくる鉄拳に頭をゴンッとやられちゃったよ。


「失礼ねっ、ハル! 早まるなってどういう事よ!」


 言葉通りの意味ですよ、マリーン【オネエ】さん……


「ハル、大丈夫よ。マリーン様は私を大切にしてくれる方だって分かったから。メイビー、ビックリさせたわね、ゴメンね。でも、私もマリーン様と添い遂げたいって思ったの。だから、祝福してくれると嬉しいわ」


 僕はそんなマリアさんの言葉にまたもや要らぬ言葉を口走ってしまったよ。


「ハッ!? まさか、マリーン【オネエ】さん、魅了魔法をマリアさんにっ!?」


 先程よりも早く鋭い鉄拳が僕の腹筋を突き刺しました……


「グッ、ハァッー!!」


「ハル! だ、大丈夫ですの?」


 メイビーは優しいね。でも大丈夫だよ。マリーン【オネエ】さんは絶妙な手加減で僕が死なないちょうどの力で殴ってくるから…… 僕は心配させたくなくて、生活魔法の治癒を全力でかけながらメイビーに笑いかけたよ。


「ハル、十二歳になって大人になったかと思ってたら、相変わらず一言多いわね。成長してないのが分かるわ」


 くっ! まさかマリーン【オネエ】さんにそう言われるなんて。僕は成長しましたよ。


「まあ、いいわ。取りあえず両親への報告もまだだから、今から一緒に行きましょう」


 まさかご両親より先に僕とメイビーに報告するなんて、マリーン【オネエ】さんこそ、相変わらずですよ。でも、この部屋にご両親は居ないようだけどって思ってたら、隠し扉があったようでそこを開けてマリーン【オネエ】さんが僕たちを手招きしたよ。


「さあ、入って。この中なら内密の話をしても誰にもバレる事は無いから」


 そう言うので僕が先頭になって部屋に入ったよ。中にはカスミさんとおそらくデイビッドさんだろう人が待っていたんだ。デイビッドさんは身長が百九十シェンはありそうなガチッとした体つきをした人だった。顔つきはとても優しそうで、マリーン【オネエ】さんはデイビッドさんの目を受け継いだんだと分かる。そんなデイビッドさんが僕たちを見て喋り始めたんだ。


「ようこそ、我が家へ。ハルくん、実ははじめましてじゃないんだが、君が一歳にならない頃だから覚えて無いだろうね。それと、メイビー嬢にマリア嬢、大変だったね。けれども安心して欲しい。クリュウ殿からも二人の事は保証されているから、我が帝国では二人とも貴族令嬢として遇する事になっているからね。それと、ハルくん。君の固有スキルについては私も知っているから安心して欲しい。勿論、この場に居る者しか知らないという事も断言するよ。帝王陛下にも言ってないからね」


 僕はデイビッドさん、カスミさん、マリーン【オネエ】さんの順で顔を見た。三人とも真剣な顔で頷いてくれたから、信じる事にしたんだ。そして、


「有難うございます。カンザキ公爵閣下。お心遣いに感謝を」


 とそうお礼を述べると、


「アラ? やっぱり前言は撤回するわ。成長したわね、ハル」


 とマリーン【オネエ】さんに褒められたよ。続いてメイビーがデイビッドさんにお礼を言う。


「公爵様、罪人扱いとなった私を受け入れて下さり本当に感謝致します。このご恩は必ずお返し致しますので、どうかよろしくお願い申し上げます」


 メイビーがそう言って頭を下げるのにならってマリアさんも頭を下げたよ。どうもマリアさんは緊張してるようだね。そこに軽い口調でマリーン【オネエ】さんが報告をしたよ。


「あっ! そうそう! 父上と母上にご報告があったの。私、マリアちゃんと婚約したから、よろしくね」


 で、固まるデイビッドさん。カスミさんは、


「まあ! まあまあ!! でかしたわ! こんな可愛い娘が出来るなんて! 母は嬉しいわ! 流石は私たちの自慢の息子ね、ねぇ、あなた!」


 と本当に心から嬉しそうにそう言ったんだ。その言葉を受けてデイビッドさんも苦笑いしながら言う。


「フッフッフッ…… そ、そうか、マリア嬢と婚約をな…… うん、勿論、私も賛成するしマリア嬢が嫁に来てくれるなんて嬉しいぞ。だがな、一つだけ聞いてもいいか、マリーン?」


「何かしら、父上?」


「お前、魅了魔法をマリア嬢に使って無いだろっ!?」


 すべてを言えずに突然に崩れ落ちるデイビッドさん。その横では鉄扇を手に持ちデイビッドさんのお腹の位置に構えているカスミさんが居たよ……


「もう〜、あなたったら冗談ばかり言って。ワ・タ・シ・たちの息子が女性にそんな事をする訳が無いでしょう、ねえ、ア・ナ・タッ!」


 デイビッドさんは何とか立ち上がり、


「ハッハッハッ、も、勿論冗談に決まってるだろう、カスミ。マリーンも父のジョークなんだから今すぐ父の上にある暗黒空間を閉じてくれないか?」


 と多分、顔面だけじゃなくて体中から冷や汗を流しながらそう言ったよ。それでもマリーン【オネエ】さんは暫く消すつもりが無いようだったんだけど、そこでマリアさんが、


「あの、本当に私でよろしいのでしょうか? 私は産まれは貴族ではありません。メイビーのご両親により、養子縁組をしていただき、ご両親が生きてらした頃は貴族令嬢としての教えを受けただけの者なのですが……」


 と、カスミさんとデイビッドさんを見ながらそう聞いた。すると、デイビッドさんが、


「マリア嬢、そんな些細な事は関係ないよ。息子がマリア嬢が良いと言うならば私たち夫婦には何の異存もないんだ。これまで、息子は数多ある婚約話を断り続けてきたのだが、そんな息子がマリア嬢と婚約をすると言うのだ。親としては息子の目を信頼しているし、私たち自身もマリア嬢に好印象、かつ誠実な人柄を知ったよ。だから不安に思う事など何もない」


 デイビッドさんがキッパリとそう言い切ると、カスミさんは椅子から立ち上がってマリアさんの元までやって来て、メイビーを含めて二人を抱きしめてこう言ったよ。


「少し抜けたところもある息子だけど、どうかよろしくね、マリアちゃん。そして、お姉さんであるマリアちゃんが私の娘になると言う事は、妹であるメイビーちゃんも私の娘になるのよ。だから、これからは私を母と思って接してちょうだいね」


 うーん、こ、これは今言った方がいいのかな? いや、まだ言わない方がいいのかな? 僕が悩んでいたら、マリーン【オネエ】さんが、


「ハル、言いたい事があるなら直ぐに言いなさい。師匠からそう教わったでしょう」


 と師匠の教えを思い出させてくれたよ。だから僕は意を決して言ったんだ。


「あ、あの、僕はメイビーとコンニャ、噛んじゃった…… こ、婚約したいんですが、も、勿論、メイビーが嫌ならしないんですけど、でも……」


 うん、女性とそんな関係婚約を結ぶのにはもっとバシッと言った方が良いんだろうけど、僕にはコレが限界です。


 するとメイビーが、僕の方を見て、


「ハル、本当に私で良いんですの?」


 何て聞いてくるから、


「メイビーじゃなきゃ嫌なんだ!」


 って思わず叫んじゃったよ。するとメイビーが僕の方に来てくれて、


「私もハルじゃなきゃ嫌ですわ!!」


 って言ってくれたんだ。その時に僕は嬉しすぎてスキルで生命なき者たちを黙らせていたんだけど、どうも拘束が緩んだみたいで、部屋の中から、


『おめでとう!!』

『やったな、この野郎!』

『ケッ、仕方ないから祝福してやらぁ!』

『おー! 何ともめでたい!!』


 などなど、生命なき者たちからの祝福の声が降り注いだんだ。僕の固有スキルを知らないマリアさんだけは、


「えっ、誰? ど、何処に居るの? ま、まさか幽霊!?」


 なんて慌ててるけど、カスミさんがマリアさんに説明して落ち着かせてくれたよ。


 こうして、この日、カンザキ公爵家で二組の婚約が決まったんだ。




 


 

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