第19話 マリーン【オネエ】さん

「ハル殿、久しぶりだ。ようこそ、我が館へ。メイビー嬢とマリア嬢も歓迎するぞ。今宵はここで旅の疲れを癒やして欲しい」


 僕が御者席から降りて、メイビーをエスコートして馬車から降ろし、マリアさんは自分で降りて辺境伯様の前に行くとそう声をかけられたよ。


「お久しぶりです、ラージ様。それよりも何故、僕の連れがメイビーとマリアさんだと?」


 僕の質問に辺境伯様の返事は、


「コチラにいるマリーナ、いやマリーン様に教えて頂いたからだよ、ハル殿」


 だったよ。扉や敷石から聞いて確認は出来ていたけど、本当にマリーナ姉さんだったんだ。


「あら? ハルったらあまり驚いて無いようね?」


 イケメンになったマリーナ姉さんからそう声をかけられたよ。口調は前と変わってないけど、見た目が変わってるから違和感が半端ないんですけど……


「姉さん、えっと…… 僕の見間違いなのかな? 男性に見えるんだけど……」


 遠慮がちにそう言ってみた僕に、マリーナ姉さんが笑いながら返答する。


「アッハッハッハッ、見間違いじゃないわよ、ハル。私は産まれた時からオトコだもの」


 いーや、僕の記憶が間違って無いなら確かに女性だったよ、姉さん。僕の顔を見て姉さんは僕の考えが分かったようだけど、


「それについてはラージ様のお屋敷の中で話をするわ、いいですか、ラージ様?」


 ってラージ様の確認を取っているよ。ラージ様も勿論と答えて、僕たち三人は表向きはラージ様のお客として屋敷の中に招待されたよ。


「さて、ここならば誰にも話を聞かれる事もない。メイビー嬢とマリア嬢には関わりがないかも知れないがマリーン様から二人にも聞かせても大丈夫だと言われているので同席してもらおうと思う」


 ラージ様がそう言って僕たちに座るように促したよ。早速僕たちが座るとラージ様が僕に話しかけてきたよ。


「さて、ハル殿。ハル殿は自分が爵位持ちだとはご存知無かったと思う。それは何故かというと、決まったのが三日前だったからなのだ。まあ、待ってくれ、先ずは私の話を聞いて欲しい」


 口を挟もうとした僕を見てラージ様がそう言ったよ。僕は口をつぐんだ。


「ハル殿もご存知のようにこの大陸には八つの国がある。我がテリス帝国、ハル殿たちが住んでいたダルガー王国、ダルガー王国の魔鏡の森を挟んで西にカナーク王国、カナーク王国の更に西に小国だが、サーヴァ公国、テリス帝国の西にゼニース商王国、東にマグス騎士王国、南に大陸最大勢力のナーマ神聖教国、神聖教国の西にトクセン将軍国の八つだ。この度、八カ国会議が開かれたのだが、それは隠者様がこの世界より出られた事が分かったからなのだ。そして、隠者様の弟子であるマリーン様とハル殿に、国々から爵位を贈り独占する事のないように取り決められたのだよ。まあ、ダルガー王国、カナーク王国、ナーマ神聖教国の三カ国からは反対されたのだが、五カ国が賛成したのでこのように決まったのだ。それにより、マリーン様の爵位もハル殿の爵位もこの大陸に限るが世界伯爵という爵位になった。各国より毎月、マリーン様とハル殿には一国につき百万レンが支払われる」


 えっと、当事者の気持ちを無視してそんな事を決められても困るんですけど。僕はそのままラージ様にそう言ったよ。だってそうでしょ、勝手にお金を渡されてこの大陸の国々に縛り付けられるなんて僕にはごめんだよ。


「ラージ様、僕にはそれを受け入れるつもりはありません。伯爵という爵位も、各国からのお金も必要ありませんから」


 僕がキッパリとそう言い切るとマリーン【オネエ】さんが笑いながらラージ様に言ったよ。


「ハハハ、ほらね、ラージ様。私と同じ事を言ったでしょう? だからそんな決まりは無効とココに決まりました。さあ、私から各国の為政者に無効になったと通達を送っておきますわ」


 そう言うやいなや、マリーン【オネエ】さんは魔法を使用したよ。師匠直伝の連絡魔法空間魔法だ。僕も使えるけど、マリーン【オネエ】さんみたいに何人にも一度には送れないんだよね…… コレばっかりはマリーン【オネエ】さんには敵わないんだ。そんなマリーン【オネエ】さんを見ながらラージ様が言う。


「むう、仕方あるまいな。お二人が納得しない場合は無効だとも会議で決まっていたそうだからな…… という訳でハル殿、先程までの話は無くなったと思って欲しい。しかしながら、テリス帝国ではお二人を貴族待遇として対処させて頂くことは帝王陛下のご意思なので御了承ねがいたい」


 御了承願いたいって…… 了承しなかったらどうなるんだろうね? 僕が返事をせずに困った顔をしていたら、マリーン【オネエ】さんが


「さあ、通達は終わったわ。ハル、それじゃ次に私の事を話すわね。それと、今ラージ様が言った事はそんなに気にする事はないわ。貴族待遇がテリス帝国では受けられると簡単に思っていたらいいのよ。いい?」


 そう言うから僕は頷いたんだ。そしていよいよ本題のマリーン【オネエ】さんの話だと思ったら、


「で、私の話だけど…… ここでは出来ないの、ゴメンねハル。メイビー嬢とマリア嬢も一緒に先ずは私の家に行きましょう。と、言っても帝都にあるんだけど。そこで、私の母を交えて話をしましょう。いいかしら、ラージ様?」


 ってお預けを食らっちゃった。今やないんかいと内心でツッコミながら僕はズッコケたね。


「それそれ、ハル、私の母にそんな感じで見せてあげてね」


 僕がズッコケたのを見てマリーン【オネエ】さんが楽しそうに笑ったよ。それから僕たちの乗ってきた馬車まで移動して、馬車に乗りさあ出発だと思ったら、帝都に着いてました……

 マリーン【オネエ】さん、転移するならそう伝えておいて欲しかった…… 僕的には帝都までの道程みちのりを楽しみにしていたんだけど……


「さあ、着いたわよ。そうそうハル、タスの湯殿への納品、有難うね。ちょっとバタバタしていて納品に行けなかったのよね。とても助かったわ。あ、あなた達がタスの湯殿を出た後に私も納品に行ってきたのよ。クリュウ様から結婚式への招待を受けたわ。来月に式をするそうなの。ハルもメイビー嬢と一緒に参加決定よ。マリア嬢は私のパートナー役をお願いしたいわ、いいかしら?」 


 うん、見た目が男性になってもマリーン【オネエ】さんは何も変わってなかったよ。問われたマリアさんは顔を少し赤らめて、


「わ、私なんかがマリーン様のパートナーで良いんでしょうか?」


 なんて聞いてるよ。良いんだよ、マリアさん。マリーン【オネエ】さんがそうお願いするって言う事はもうマリアさんはマリーン【オネエ】さんにロックオンされてるんだから。


「勿論よ、マリア嬢。よろしくお願いね。さ、それじゃ母が待ってるわ、家に入りましょう」


 そう言って促されたけど、母って? 確かマリーン【オネエ】さんのお母さんって亡くなってる神女様って言われてたよね? その話が間違ってるって事なのかな?


 僕はそう思いながら家の中に入っていったんだ。





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