第6話

「ねぇ、そう思いませんか? エルム第一王子殿下?」


 カエラは敢えてエルムのことを正式な呼称付きで呼んだ。次はお前の番だと言わんばかりに。


「あ、あぁ、確かにその通りだな...」


「貴族としての義務も果たさず、自己研鑽のための努力も怠るなんて本当に最低ですよね?」


「あ、あぁ、全くだ...」


 エルムは真っ青な顔になってそう言った。


「ところでエルム殿下、私達って既に18歳になっていますよね? それなのにエルム殿下は未だ立太子されず、第一王子と呼ばれているのは何故かお分かりですか?」


「そ、それは...」


「エルム殿下の一歳下に、エルム殿下よりも文武両道に優れたアレス第二王子殿下がいらっしゃるからですよ? 国王、王妃両陛下からは生まれた順に関係無く、学園の成績や公務に取り組む姿勢など、あらゆる面から見て総合的に判断し、次代を担う国王を選ぶのだと言われていますよね? 忘れちゃいましたか?」


「い、いや、覚えているが...」


「だったら王族の責務を放り出して遊び呆けている場合じゃないですよね? それとも王太子になる気は無いってことですか?」


「い、いや、そんなことは...」


 エルムの顔は真っ青を通り越して真っ白になっている。


「あぁ、だから私と婚約破棄するっておっしゃったんですね? 次代の王妃となるべく厳しい教育を受け、公務を担って来た私を捨ててまで、そちらの阿婆擦れさんを選ぶとおっしゃるんでしたらお好きにどうぞ? 私は引き留めたり致しませんわ」


「......」


 エルムはついに無言になってしまった。


 すると在校生の並ぶ列から誰かが飛び出して来た。先程話題に上ったアレス第二王子である。


「義姉上、いいやカエラ嬢。兄上が婚約を破棄するというなら、僕と婚約して頂けませんか? 昔からずっとお慕い申しておりました。兄上の婚約者だからと仕方なく諦めていましたが、もう我慢しなくていいですよね?」


「ちょっと待ったぁ!」


 すると今度は卒業生の中からも一人の生徒が飛び出して来た。隣国から留学に来ているゼット第二王子である。


「カエラ嬢を慕っていたのはボクも同じなんだ! 第一王子の婚約者だったから遠慮していたけど、フリーとなった今なら遠慮しなくていいよね? カエラ嬢、ボクと結婚して下さい! 我が国はあなたを歓迎します!」


「ちょっと待てぇ! それなら俺だって! カエラ嬢、愛してます! 付き合って下さい!」


「抜け駆けするなぁ! オレだってあなたのことが大好きです、カエラ嬢! 恋人になって下さい!」


「僕も!」「ボクだって!」「俺も!」「オレが先だ!」


 次々にカエラへと求婚者する者が現れ、収拾がつかなくなってしまった。


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