第14話 留学先で住むところ

 念願叶って、トゥールに行くことになった。その前に日本から友達が来てくれてパリで集合して、ミレーの庭に行ったり、パリの美術館巡りをして、しばらく会えないけど、私いは覚悟を決めて、スーツケースを引っ張って、TGVに乗って、トゥールの街に着いた。


 少し長くなるので、ホームステイではなく一人暮らしのアパートを希望していた。値段が高いなぁとは思ったけれど、それでも仕方ないと思っていた。


 しかしその大家が曲者だった。その大家が地元でも有名な金持ちなのか、学校にもコネクションがあるのか、色々ひどいことがあってももみ消しているような人だった。学生相手に何軒かアパートを高額で貸し、さらにはホームステイまでしていた。


 そうとは知らず、私はスーツケースを引っ張って、予定の時間前に借りる予定のアパートの前に着いた。すると日本人の男の人がいて、「あの…もしかして、このアパート借りてた人ですか?」と聞いた。


「あ、はい」

「次、借りる予定なんですけど…、良かったですか?」と聞いてみた。

「サイテーだよ。古いし、汚いのに、高額だし…。絶対自分で探した方がいい」と言われた。


 いきなりの暗雲が垂れ込めた。


「大家も最低だし、絶対契約しない方がいい」とまで言われた。


 確かに学校に行くのも遠いしなぁ…と私は思った。そうこうしている間に、大家が来た。鍵の受け渡しに来た大家が現れる。その男の人は「やめた方がいいですよ」と念押ししてくれて、私は頷いた。


 何となく私たちの不穏なやりとりを見ていたのだろう。何かを察したような大家だった。でもとりあえず、家に入れられ、しっかり見てはいないが、確かに綺麗とは言えない感じだった。しかし断るのだから、私は見る必要がない。

「あの…自分で探します」と言った。

「え? 探せるのか?」

 多分、フランス語が全くできない日本人相手にしていたのだろう。私はきっぱりと

「自分で探すので、この部屋は結構です」と断った。

 今思えば、明日から学校も始まると言うのに、どうするつもりだったんだろうとは思ったけれど、なぜかその時の私はなんでもできる…気がしていた。怖いもの知らずとはこのことだった。

「今日はどうするんだ」

「今日はもうホテルに泊まって、しばらくホテルで…そこから探します」とあくまでもきっぱりと告げる。

 なぜかその時の私は自信に満ちていた。

 全く何の理由もないのだけれど。

 そしてタイミング良く、大家が腰掛けた瞬間、その椅子が壊れた。足が折れたのだった。

 私は「ほら」という顔をした。

 大家も仕方ない、と言う顔をして、「じゃあ、もう一軒あるから。そこはここよりは狭いけれど、値段も安くなるし」と言って、案内されたのが学校のすぐ近くで、広めの1Rだった。


 ほぼ学校の隣と言っていい家は可愛い白い壁で日本だと二部屋の間取りは取れそうなワンルームだった。しかも値段も安くなるという。

 大家は嫌だったが、私は交渉にでた。

「家賃には光熱費は含まれますか?」

「無料だ」と契約書にも書いた。

 つまり家賃だけで全て賄えると言うことだ。もう一度、言う。大家は気に食わないが私の中でより良い条件に変更されたので、それで契約することにした。


 私は運が良かった。あの時、前の住人に会えたこと、椅子がタイミング良く壊れたこと。そして謎に自信があった自分。


 フランスではいい人も悪い人ももちろんいる。トゥールという街はフランス語を学びにくる外国人が多いから、それを目当てにしている人もいるし、親切にしてくれる人もいる。


 ただ私の感想ではフランス語の美しい場所だということで、習いに来る外国人が多いので、やはり生活手段として留学生を受け入れる人も多かった。


 ここで、私は四ヶ月住んだ。また大家とのトラブルが発生するまでここにいた。


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