第45話 謹賀新年 ─黒再び─

年末年始の鳳凰院家は色んなご挨拶で超忙しい。

そんな訳でクリスマスデートからもう10日ほど俺が恋人に会えていない。

一応チェインでメッセージを送ったり、

夜の空いた時間で通話したりはする。

それでもやっぱり会いたいものは会いたいのだ!


『初詣デートしたいけどいつなら会える?』

と送ったのは元旦早々のことだった。


『1/4なら大丈夫です!』

と返事が返って来た時はウキウキで

『じゃあ俺も1/4は予定空けておく!』

と返事を出したものだ。


しかし、初詣デートという希望はもろくも崩れ去った。


『1/4にシラユキと初詣行くんだって?

 私も初詣体験は初めてだし一緒に連れて行ってよ!』

とソフィアからメッセージが飛んできたのだ。

鳳凰院家との新年の挨拶で訪れた時に白雪が漏らしてしまったようだ。

こうなるともう2人きりで、という訳にはいかない。

あっという間に晴と来人にも話が伝わり、

いつもの5人で初詣、という事になった。


白雪から謝罪のスタンプが飛んできてたけど、

2人はこれからも一緒に居るんだし、

チャンスはずっとあるから気にしないでと送ると、

爆速で電話が掛かってきた。

本当に俺の彼女は可愛い。



そして1/4が到来。

明治神宮とかは流石にまだ人ゴミが凄いだろうし、

もうちょっと落ち着いたところにしようという話になり、

とある氷川神社にお参りすることになった。

というのもここは俺が毎年来てて、程よく賑わっており、

お気に入りの神社なのだ。



集合場所の参道前に30分前に着くと既に来人がいた。

「あけおめー」

「おっす、あけおめだな来人。

 つかお前早くね?」

「一応女性陣が来たらナンパ除け要るかなって思ってさ」

「お前も同じ考えだったか。

 結構人いるしそういう考えの野郎もいそうだしなぁ……」

などと他愛もない話をしていると女性陣が並んでやってきた。

どうやら駅で偶然バッタリ出会いそのまま一緒に来たという。

白雪さんの振袖姿が見れるかな?と少し期待していたが普通に洋服だった。

『この3日間ずっと和服で苦しくて……

 それに皆さんと一緒の時に和服は浮きそうで……』

との事だった。

まぁ来年のお正月には見せてくれると約束したので1年後を楽しみにする。


「それじゃあ行くか」

白雪の手を取り、参道を歩き始める。

そんなに長い参道ではないが脇には出店も結構あるので

お参りが終わったら色々楽しめそうだ。

こういうのは初めてなのが白雪とソフィアがキラキラした目で出店を見ている。


賽銭箱に奮発してお札を投げ入れると二礼二拍手一礼する。

(どうか白雪がいつまでも笑っていられますように!)

無論自分自身でも可能な限り頑張るつもりだが

それでも白雪の笑顔については神に祈らざるを得なかった。

MTN世界大会については自力で頑張るしかないので神には祈らない、嘘。

(世界大会でデッキが事故りませんように!)

やっぱり運の部分もあるしちょっとだけ祈ってしまった。

まぁ賽銭奮発したしこれくらい神様も許してくれるだろう。


お参りの後は定番のおみくじである。


「お、吉だ」

可もなく不可もなくだが『待ち人:共にあり』の一文でガッツポーズしてしまった。

早速ご利益があったよ、サンキュー神様。


「私は大吉です!」

無邪気に喜ぶ白雪のおみくじ内容を一緒に読む。

『待ち人:油断すれば失せる』の文字。

「こ、これは……」

愕然とする白雪に

「大丈夫!俺の方は共にありってあるし!」

そう励ますも

「でも……蒼太様の待ち人が私でなくなるかもしれない訳ですし……」

とションボリしている。


「ワタシのは小吉ね。

 これってリトルってことは良くないのかしら?

 2人が気にしてる待ち人ってところが『粘り強く待つべし』ってなってるわね」

「ボクは末吉だね。

 待ち人は『望みを持て』だね。

 ふむふむまだチャンスはあるのか……」

ソフィアと晴のおみくじの内容に白雪の顔色が蒼白になっていく。


「蒼太様!私を捨てないで下さい!!」

そういって白雪が抱きついてきた。

「ちょっと白雪落ち着いて!

 こんなのただのおみくじだからね?

 そんなに深刻に受け取らなくて大丈夫だよ。

 俺は白雪一筋だから」

彼女の眼を真っすぐ捉えて優しく諭す。

「はい……信じております……」

俺の言葉で平静を取り戻した白雪だがまだ不安そうだ。

うーむ……何か落ち着かせる良い手はないものか……


そんな事を考えていた時だった。

「蒼太じゃない!!」

背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くとそこにはあの女『裏咲 黒百合』がいた。


「へぇ……こんなところで再会するなんて偶然だね」

やたらと親し気に話しかけてくる。

いやいや、俺とお前の関係はもうそういうんじゃないじゃん……

と冷静に分析できてしまう。

あの時と比べてメンタル鍛えられたな。

いや、白雪に癒されたからこそ平気なのかもしれない。


「偶然だな。じゃあな」

おみくじも終わったので皆と屋台の方へ向かおうとする。

「ちょっと待ちなさいよ!」

そんな俺を裏咲が呼び止める。

「何か用か?」

マジで何で呼び止めたんだ?


「私が彼女になってあげるって話、今ならまだOKしてあげるわよ」

コイツは何言ってんだ???

そんな疑問が一瞬浮かんだが次の瞬間には笑ってしまっていた。

俺に釣られて晴と来人も笑い始める。

ソフィアは心底見下した視線を向け、

肝心の白雪はポカーンとしていた。


「何がおかしいのよ!?」

俺達に不思議な目を向ける裏咲。

「いやだって、俺もう彼女いるし」

「はぁ!?オタクのアンタに彼女!?」

「うん、こちらが俺の彼女」

そう言ってポカンとしてる白雪の手を取る。

「こんな美少女がアンタの彼女ってもっとマシな嘘を……」

「いいえ、私は蒼太様の彼女であり婚約者の鳳凰院白雪と申します」

裏咲の言葉を遮るように白雪が名乗る。


「婚約者って……え?鳳凰院?」

「ええ、鳳凰院白雪です。

 恐らく貴女が思い浮かべている鳳凰院本家の娘です」

「なっ……!」

裏咲は目を見開き、信じられないモノを見たような顔をしている。

「貴女が私の未来の夫である蒼太様にした仕打ちについては今でも許せません。

 しかし、私も子供ではありません。

 これ以上私達に関わってこなければ貴女に何かするつもりもありません」

鋭く睨みつける訳でもないが

事実を淡々と告げる白雪の態度に裏咲は完全に委縮していた。


しかし、白雪の追撃はそこで終わりではなかった。

「言葉だけでは信じられないかもしれませんし証拠を見せましょうか」

そう言うと両手を俺の首に回し、ぐっとつま先立ちしたかと思うと


「んっ……ちゅ……はぁ……」


ボーっと2人を眺めていた俺の唇に吸い付いてきた。

あくまで唇を吸う程度だが今までにない大胆なキスである。


「あーーーー!!!本当はワタシなのに!」

「羨ましいなぁ!!!」

「裏切りもの!」

背後から3人の声が上がる。

てかソフィアと晴は何を言っているんだ……


俺とのキスを見せつけた白雪は勝ち誇った表情で裏咲に再び向き直る。

「これでご理解頂けましたか?」


「っ!」

これでもかと見せつけられた裏咲は

以前の様に捨て台詞を吐くことも出来ず走り去っていった。


「白雪、流石にちょっと驚いたよ」

「申し訳ありません。

 でも蒼太様を傷付けた女をそのまま帰すのは

 妻の矜持として許せませんでしたので」

そう言って白雪はソフィアと晴にも目配せする。

いや……まだ妻じゃないし。

きっと2人も冗談で言ってるだけだし……

あまりその綺麗な顔でキリっとするのは辞めて頂きたい。



急な珍客があったが追っ払った後は何事もなかったかのように屋台へと向かう。


「私は綿飴が食べたいです!」

「ワタシはリンゴ飴ー!」

「うーん、ボクは箸巻お好み焼きかな」

「俺はイカ焼き」

お前らみんな自由過ぎる。

というか晴のチョイス渋すぎる。

ここはそこまで大きくないからそんなマイナーメニューまであるか分からんぞ。


その後はみんなの食べたいものを順番に巡り、

射的や輪投げといった定番遊びを制覇していった。

初お祭りな白雪とソフィアが満足したようで良かった良かった。

なお箸巻お好み焼きの出店は無かったので

同じ粉モノのたこ焼きで我慢していた晴はちょっと不満げだった。


2人でのデートもいいけどやっぱり気の置けない5人での遊びは良いものだ。

これからも友人として仲良くできれば良いなぁ。


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まさかの裏咲再登場。

実は元のプロットではこの回の後にざまぁされる予定だったので

プロット通りに再登場させてみました。

ホストに本格的にハマるのはこの後となります。

(この時点ではまだホストとも友人関係でいられた)

完結後、黒百合ざまぁ回を改稿してここの後ろにもってくるかもです。

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