第31話 緑の逢瀬

体育祭の三日後。

振替え休校の月曜も終えての火曜日。

俺は死ぬほど登校したくなかった。

でもここで逃げたら卒業まで逃げなきゃならない訳で、

そんなことをする訳にもいかず、渋々登校した。


校門に近づいた辺りから周囲の視線を感じる。

嫉妬の眼。

好奇の眼。

侮蔑の眼。

色んな視線が突き刺さる。


校門の中に入ると視線どころか俺に聞こえるように

ヒソヒソ話をするやつらも少なくない。

彼らの中で俺は校内きっての美人でお嬢様の二人を囲い込んで

夜の生活も金銭面もウハウハの二股ヒモ野郎ということになっていた。

クラスに辿り着くまでに何度も『二股チャンピオン』という単語を耳にする。

どうやら俺のあだ名のようだ。


クラスに辿り着くとクラス中に視線を一身に受ける事になる。

俺がこんなに注目されるのって世界大会の決勝卓以来じゃないか…

席に着くと来人がやってきた。

「よう!二股チャンプ!」

「誰が二股チャンプだ!俺は誰とも付き合ってない!」

俺の言葉にクラスがざわめく…

「つまりセフレってこと…?」

おい今とんでもないこと言ったやついるな!誰だ!?

「でもさ、あれって完全に二人からの告白だろ?」

「まぁ…それは否定できない…」

(これって晴は大丈夫なのか?)

小声で晴の事を聞いてくる。

(いや、実は晴からも告白自体はもうされてる…

 なので二人のあれは告白つーかお互いに牽制してる感じかと思ってる)

(うん、お前は刺されて死ぬべき)

ハイライトの消えた目で抑揚のない言葉を投げつけて席に戻っていった。


その後は登校してきたソフィアが俺に抱き着き、

白雪さんがそれを剥がそうとしたり、

白雪さんが俺の隣に立って制服の裾を摘まんでたり、

ソフィアがまた抱きついてきたりする以外は普通の1日だった。

無論クラスメイトの視線は絶対零度の冷ややかさだった。

もう俺に平穏な学校生活は無理なのかもしれない。


その日の放課後、白雪さんは習い事、ソフィアは家の用事、

来人は委員会活動ということで久々のボッチだ。

あまりに怒涛の一日過ぎてボッチであることに安堵してしまう。

図書館で久々に本でも借りるか、と図書館に向かっている最中だった。

ピロンとスマホが鳴る。

通知を見ると晴からのメッセージが届いている。

『そー君って今日の放課後暇?』

『超暇。今ボッチで図書館あたりで時間潰そうとしてる』

『ならボクとちょっと出かけない?』

晴と出かける、というとアニメショップやカードゲームショップ巡りだろうか。

確かにそれもいいかもしれん。

『OK、久々に2人で出かけるか』

『じゃあ、校門で待ってるね』

んん???

『校門で待ってる #とは?』

『今そー君の高校の正門に来てるからそこで待ってるってこと』

晴のメッセージを見て、即座に俺は廊下の窓から校門を見ると

そこには明らかに人だかりが出来ていた。


体育祭が終わったばかりだというのに俺は全力ダッシュする羽目になる。

体力無いオタクに無理をさせないで欲しい。


「あっ!そー君!」

俺が人垣に近づくと晴が声を上げる。

すると人垣の一部が割れる。

そこに居たのは北麗制服姿の晴だ。


「そー君ってこいつか?」

「二股チャンプって実は三股だったのか?」

「この北麗の子って体育祭にも来てたよね」

「えっ!あの二人の告白見ても諦めてないってこと!?」


ガヤの声がうっとおしい。

「晴、とっとと行くぞ」

俺はそんな声を振り切るように晴の手を取って駅へと向かった。


「はぁはぁ……」

駅に着いた頃ダッシュにつぐダッシュで俺の体力は限界だった。

「そー君、あの…手…」

「あ、悪い!あそこから一刻も早く逃げないと、と思ってさ。

 俺はまぁ…仕方ないにしても晴まで見世物になってるのは悪いと思ったからさ。

 急に手を握ったりしてごめんな」

「いや…別にボクは嫌じゃないけど……」

そうだ、俺は晴からも告白されている身だった。

一般的にそれくらい大好きな異性から

手を繋がれるのは嫌ではないという事だろうか。

というか晴を物凄く勘違いさせてしまっているのではなかろうか。

「手を握ったのは本当に他意はないからさ」

「そんなに焦らなくても分かってるって。

 でも分かってるけど言わないでおいてくれた方が嬉しかったなぁ」

そう言って晴は下から見上げてくる。

晴の小動物めいた可愛らしい動作に思わずときめいてしまう。

「と、取り敢えず移動しようぜ。池袋でいいか?」

「うん、じゃあ池袋へレッツゴー!」

2人で電車に乗り込み池袋を目指した。


「あれ?晴どっちにいってんだ?」

池袋につくと晴がいつもの東口ではなく西口向けて歩き出した。

俺の記憶が正しければ西口にオタショップは無い。

「いいの、今日のお目当てはこっちだから」

そういう晴についていって辿り着いたのはIOIOだった。

あー、IOIOってアニメ展示コラボとかよくやってるもんな。

なるほどそれがお目当てか、と納得。


「ねぇそー君、このアクセサリーとか超かわいいね!」

しかし、俺の予想とは裏腹に晴はさっきから

アクセサリーショップや雑貨店をひたすらに巡ってる。

「なぁ晴。ここに来たのってアニメコラボが目的じゃないのか?」

「へ?いや普通にウィンドウショッピングが目的だよ」

「え?」

「そー君はウィンドウショッピング嫌?」

「別に嫌ではないけど……」

実際問題青ねぇに色々連れまわされたりしてるのでこういうのには慣れている。

「じゃあ、このまま行こうか。次は服が見たいかな。

 そろそろ冬服のアウター欲しいし」

そう言って楽しそうに晴が店を見て回る。


ここに来て気が付いたがこれって放課後制服デートというやつでは?

いや、俺と晴は付き合ってる訳じゃないしデートと呼ぶのはおかしいか?

でも最近じゃ女の子同士でもデートとか呼ぶし恋人かどうかは問題ではない?

急に晴のことを意識してしまい頭がグルグルと回りだす。


「…っくん」

「えっ!?」

「そーくん、聞いてる?」

「あっいやスマン。ぼーっとしてた」

「もー!この二つのアウターどっちがいい?」

「えーと…俺のセンスとかあてにならんと思うけど」

「いいからどっち?」

「白い奴の方が晴には似合うんじゃないかな…」

「おっけー!じゃあこれ買ってくるね!」

そういうと晴はレジへと向かって行った。

これもう完全にデートじゃないか!?


ウィンドウショッピングの後は二人でカラオケとなった。

来人も含めた3人ではよく来たが2人でとなると初めてだ。

しかも今の晴は完全に女子高生モードである。

意識するなという方が無理だ。

しかも今日に限って選曲がおかしい。

何でいきなりオーニシクラヨシの恋愛アニメOP3連発とかしてんの!?

普段なら異世界転生アニメの主題歌とか歌ってるじゃん。

「晴ってさ、そんなにオーニシの曲好きだったっけ?」

「好きだよ。そー君だってユニゾンとか好きでいつも歌ってるじゃん」

「いやまぁユニゾンは十八番だし……」

そんな話をしてると次の曲が流れ始めた。

あっこれも恋愛アニメの曲だ。

しかも女性ボーカルでめっちゃ甘いセリフ詰込みみたいな歌詞のやつ。

チラっと晴の顔を見るとめっちゃ真っ赤になってんじゃん!

恥ずかしいなら無理するなよ!

とも言えずこの後も恋愛ソングメドレーは続き。

俺の精神が疲弊するカラオケとなった。



「はー!楽しかった!」

満面の笑みで晴が言い放つ。

「まぁ楽しかったけど結構疲れたな」

「えーそんな事ないよ!まだまだ遊べるよ?」

「いや、俺はもう限界。つか良い時間だし帰らないとご両親心配するぞ」

「むぅ確かに時間的にはそろそろ帰るしかないね…」

「なぁ晴、なんで今日は西口だったんだ?」

「特に意味はないけど?」

「本当にか」

「本当に、ただ敢えて言うならそー君と色々初めてなことしたかったからかな。

 ボクって女子高だし、放課後に制服で男の子とデートなんてしたことなかったし」

「ばっ、別にこれはデートじゃねぇだろ、いつもの一緒に出かける延長だ」

「まぁそういう事にしておいてあげよう」

そんな会話をしていると駅に着く。

「じゃあ、そー君またね!」

「おう、またな!」

晴と別れてそれぞれ家路に着く。


「デートか…」

思わず晴の言葉を反芻してしまう。

晴はで誘ったってことだよな。

改めて3人の本気さを思い知った感じだ。


翌日登校した俺を待っていたのは『二股チャンピオン』改め

『ハーレムチャンピオン』というあだ名だった。

もう好きにしてくれ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る