第47話 勝利への道筋!


「(女の人ばっかりだったね)」

「(そういえば……確かにそうだな)」


 中に入るまで、俺達のことを遠目に見ている人々がいた。

 子供の姿もあったけど、ほとんどが女の人だったような気がする。


 周りを見渡しても、この集落には特に目新しいモノはなさそうだ。

 俺達は周囲を警戒しながら、小さな建物に入った。


 外からは分からなかったけど、中には結構価値のありそうな物がある。

 ぴかぴかに光る壺とか、差し出されたお茶のカップも値打ちがありそうだ。


 茶を飲んでいると、老婆が俺の方をじっと見つめてるのに気づいた。


「遠いところ、ようこそおいでくださいました。私はミレナバと申します」


 ミレナバと名乗った女性に合わせて頭を下げる。


「歓迎していただいて有り難いが、ここにラヴェルサはいないのだな?」


 ここに来た全員が思っているであろうことを、イオリが口にする。


 本来ならその役割は俺が相応しいのだろう。

 セイレーンはわざわざ俺を指名してきたんだからな。


「ええ、ここに来ることはあり得ませんから。もっとも今はそれも疑わしいのですがね」

「では、そちらの要件を聞く前に、アルフィナ様のことを教えていただきたい。些細なことでも構わない」


 ミレナバはポツポツと語りだした。


 現在、アルフィナは彼女の孫にあたる人物に世話をされているそうだ。

 それもわずか九歳という若さの女の子に。


 ミレナバは随分ゆったりとしたペースで話す。

 歳のせいもあるのだろうけど。

 イオリとしては、早く先を聞きたいだろうに我慢強い。


「まだまだ若輩ですが、もはや、あの子以外に適任がおらんのです」


 これはアレか?

 アルフィナを救出する時に、その子も一緒にお願いしたいってこと?

 そんなの頼まれなくったってやるつもりだったさ。


 でも、適任がいないってどういうことだろう。


「聖女様は平穏に暮らしておいでです。アルバが聖女様に良くしてもらっていると嬉しそうに手紙を送ってきておりますので」

「そうか……」


 ひとまず一安心ってところか。

 今の言葉だけでも、イオリは来たかいがあっただろう。

 安堵の表情が窺える。


 でもラヴェルサに囲まれての生活なんて、苦しいに決まってる。

 絶対に助け出さないと。


「アルバ殿は無事なのですか? 奴らに襲われないのでしょうか?」

「あの子はご先祖様によく似ておりましてな。目元など特にそっくりなのですよ。そのおかげでしょうか、無事に暮して居るようです」


 老婆はそういって俺を見た。

 正確には俺の頭に座ってるレトに視線が向いている。


「そこにおられるのでしょう? レト様、お姿を拝見させていただけませんか?」


 セイレーンから話を聞いていたのだろう。

 もしかしたらレトが目当てだったのか?


「レトの姿が見えるんですか?!」

「いいえ、見えるわけではございません。ただそこにおられるのを感じているだけですよ」


「お婆さまは特別なの! 聖女様の力を感じ取れるのよ!」


 隠れていた少女が自慢げに話した。

 少女はすぐさま彼女の母親っぽい女性に連れ去られた。

 その様子が微笑ましい。


 でもレトの聖女の力か……。


 確かにレトはその力を持っている。

 Kカスタムの浄化をしてくれてたんだからな。


「私も若い頃は聖女様にお仕えしておりましたが、レト様ほど強い力を持つ方は誰一人としておりませんでした」

「マジかよ!!」


 いっけね。

 興奮して席から立ち上がってしまった。


「(へへ~ん)」


 頭上では姿を現したレトが気分良さそうにしている。


 でもレトが聖女より強い力を持っている?

 驚きでいっぱいだ。

 他のメンバーも同様のようだ。


 確かにそう考えれば納得できることがある。

 なんで俺達が出撃した時にラヴェルサが襲ってきたかってことだ。

 それはつまりレトの聖女の力がラヴェルサを引き寄せていたってことだ。


 俺が戦闘経験を積めたのも、傭兵団に臨時収入ができたのもレトのおかげなのかもしれない。



 ……でも、そうなるとおかしくないか?



 あの決戦の時、アルフィナを確保したラヴェルサは俺と副長を無視して地下プラントに戻っていった。レトの方がアルフィナより強い力を持っていたとしたら、Kカスタムに向かってきたはずだ。


 それともアルフィナの力はレトよりも勝っているってことか?

 ミレナバが比べてるのはアルフィナじゃなくて、歴代聖女たちだろうからな。

 ちょっとよく分からない。


「何、ボケーっとしてるのよ。ムッツリスケベ!」


 おでこにレトの蹴りがさく裂する。

 どうやらまた一人で考えすぎていたようだ。


「おおっ、そのお顔! そして活発なご様子! 言い伝え通りのご先祖様のお姿ではありませんか」


 なんだか口調が婆さん若返ってない?

 暴力的なのを活発って表現するのは止めて欲しい。

 全然痛くはないんだけどさ。


 でも、ひょっとして、遂にレトさんのことが分かっちゃう?

 聖女の力を持つレトと聖女を支えてきた一族。

 そしてレトは彼女らのご先祖様にそっくりだという。

 これが偶然だったら、そっちの方がびっくりだ。


 アルフィナのことを聞くつもりだったのに意外な展開になった。

 俺は居住まいを正して、ミレナバに尋ねた。


「そのご先祖様のこと、教えていただけませんか?」

「もちろんでございます。セイレーンからもそのようにと言われておりますので……」


 もしかしてセイレーンもレトのこと分かってたんじゃないのか?

 だからこそ、レトを連れ帰ろうしたのかもしれない。

 ただの趣味のような気もするけど……。


「そのご先祖様はレストライナ様とおっしゃいましてな。三百年以上昔に生きておられました……」


 レストライナってのはレトの本名だ。

 なぜだか頭の片隅に残ってたぜ。


「なあ、これってレトのことだよな?」

「いいから黙って聞きなさい!」


 はい、その通りでございます。


「嘗てレストライナ様にはラヴェルサという恋人がおりました。ええ、皆様が考えている通りでございます。世界で暴れているラヴェルサそのもの、アレはレストライナ様を求める哀れな男の残滓なのです」


 レストライナの家系は商人から貴族に成り上がったという。


 彼らは赤光晶の鉱脈を発見、独占することでその地位を強固なモノにしていった。     

 赤光晶の管理と作業用機人の生産は、当時のリグド・テランを大いに富ませた。


 貴族のレストライナと鉱山で働くラヴェルサは、お互いに惹かれあっていた。

 当然のことながら、身分の差が二人の恋路を阻むことになる。

 両親に大反対され、二人は夜な夜な密会を繰り返していたそうだ。


「それは事故だったと伝え聞いております。ある時、レストライナ様は赤光晶を溶かす機械に足を滑らせて落ちてしまいました。ラヴェルサはレストライナ様が二人の将来に絶望して身投げしたと思ったのでしょう。彼は数日後にレストライナ様を追って自らも飛び込んだのです」


「もしや、その頃?」

「ええ、恐らく想像通りでしょう」

「では、その数日の差が世界の明暗を分けたというのか……」


 イオリたち三人はそれぞれ納得して頷いている。

 レトはキョトンとした表情をしてるけど。


 俺は知らなかったことだけど、ラヴェルサが暴れまわる直前に大規模な地震と竜巻が発生したらしい。


 それによって赤光晶のプラントの一部が吹き飛んだそうだ。


「ラヴェルサは自分とレストライナ様が結ばれることを許さなかった世界に対して、強い恨みを抱いていたのでしょう。そのせいで暴れまわっているのかもしれません。聖女の力とは、すなわちレストライナ様の想いが込められた力。ラヴェルサはレストライナ様の想いを集める事で沈静化しているのです」


 なるほど、俺にも事情が分かってきたぞ。


 赤光晶ってのはイメージで動かせるようになる物質だ。それは想いの力と言い換えてもいいだろう。つまり、世界に広がる赤光晶には、レストライナの想いとラヴェルサの想いが入り込んでいるんだ。


 恐らくレストライナの想いは竜巻によって世界中にばらまかれてしまったのだろう。


 それが人間の体の中に入り込んだ。ルーベリオ教会のアレクサンドラはレストライナの想いを多く持っていたが故に初代聖女として祭り上げられたんだ。


 一方、レストライナを求めるラヴェルサは、そのまま地下プラントに残ったということか。そして機人を生産してレストライナを求めた。いや、世界に対して復讐するためか?


 そこら辺は謎だけど、知り様がないので気にする必要はないよな。


「レト、今の話を聞いて何か思い出したか?」


 皆の視線がレトに注目している。

 レトは体をくねくねしながら唸っていた。

 三百年以上も前のことだから仕方ないっちゃ仕方ない。


「う~ん。そういえばそんな名前の悪ガキの記憶があるような……。でも、私と恋人だなんて絶対ない!!」

「うん。そうだろうな」


 何故だか納得してしまう。

 レトは俺の言葉に不満げだ。


「レストライナ様も子供の頃はレトと呼ばれていたようです。レト様はレストライナ様が幼い頃の想いを受け継いでいるのかもしれませんね」


 なんだか一本の線に繋がってきた気がする。


 俺はこの世界にやってきて鉱山で働かされていた頃、巨大な赤光晶の塊りを発見した。それを使ってグルディアスを倒したけど、その後、どこにあるのか分からなくなってしまった。レトと出会ったのはその直後だ。


 恐らくレストライナの子供の頃の想いが詰まった赤光晶が、竜巻に寄って飛ばされたのだろう。三百年以上後になって、レトはそこで死にかけの蝶々を見つけて、自らの記憶をたどって赤光晶の特性を利用して変化させたということだ。記憶がないのは昔の事だからなのか。


 そういえば出会ったばかりの頃にレトが言ってたっけ。

 心の広さってのは体積と比例しないって。


 きっとあの小さな身体に、巨大な赤光晶のエネルギーを溜めこんでいるんだ。

 レトは本能的にそれを分かってたのかもしれないな。


「なあ、これ、ラヴェルサを完全に浄化できるんじゃないか?」


 代々の聖女よりも強い力を持つレトと、現聖女のアルフィナ。

 二人がいれば絶対にラヴェルサに対抗できるはずだ!


 一応、俺もいるしね。

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