第45話 再会!!


 森の拠点を出発してから数時間。

 神聖レグナリア帝国領に向かって、俺たちは順調に進んでいた。


「結構早く走ってるけど、皆ちゃんと付いてきてるね。最初の頃のケンセーより上手だよ」

「まあ、素人だった俺とは違って、しっかり訓練をやってきてるからな」


 別に自分と比べる気なんてちっともない。

 これからの戦いを考えれば頼もしいくらいだ。


 俺達がこれから向かうのは辺境の集落だけど、最終的な目的はアルフィナのいるラヴェルサの地下プラント。第八エリアの戦い以上の激しさが待っているに違いないからな。


「隊長! ラ、ラヴェルサの機人です!」

「……ケンセー、呼んでるよ?」

「ん? ああ、敵の数が少ないな。散開して包囲」


 呼ばれ慣れてないから反応が遅れてしまった。

 傭兵団の頃はみんな名前で呼んでたし。


 ラヴェルサの数は三機。戦力的には問題なく倒せるだろう。ところが敵を囲んだ小隊メンバーたちは、どうも距離をとって俺と戦わせようとしているようだ。俺の実力を試してるのか? 


 いや、どっちかっていうとびびってる気がする。

 こういう場合、団長だったらどうするだろうか


 ……よし!


「フォルカ、そっちに一機任せる」

「了解です」


 引き受けた二機のうち、俺は一機に接近して、切断を繰り返して戦闘不能にする。

 そしてすぐさま離脱。


 まずは手本を見せたってわけだ。

 無線から感嘆の声が漏れてくる。

 おいおい、頼むぞ。


「すぐに倒さないで、ラヴェルサの動きを観察しておけよ」

「はい!」


 後は周囲を警戒して任せるだけだ。

 ロジスタルスのメンバーの動きは悪くない。

 ってか、思ったよりかなり動けてる。


 三機はラヴェルサを囲んで無傷で破壊した。

 どうやら初めての実戦に緊張し過ぎただけのようだ。


「よし、いいぞ」


 俺の小隊メンバーは若いメンバーで構成されてるから、ここで実戦経験を積めたのは結構デカい。


 俺たちはこれから理想を追い求めて行動する。

 ベテラン兵士にとっては青臭く見えるだろう。

 だからそういう奴らはロジスタルス防衛に残し、若い奴だけで遠征しているんだ。


 キルレイドさんはロジスタルスを説得するのに苦労したと思う。

 下手をすれば……いや、成功したとしても問題になるのは間違いない。

 ラヴェルサから守るためとはいえ、国境侵犯をするんだから。


 軍人の衣を脱ぎ捨てて、一私人として戦いに赴く。

 そんな彼らを精神的に守るのが聖女の御旗だ。


「よし、行軍を再開するぞ。旗を掲げろ!」


 幸いにもロジスタルスにも聖女の権威は通用した。

 それはこれまで教会勢力が対ラヴェルサを一手に引き受けてきたおかげで、ロジスタルスに被害が及ばなかったからだ。


 それに加えてどうやらロジスタルスは、うら若い聖女たちのことをアイドルのように考えていたらしい。隣接する国とはいえ、他人事ように感じていたからこそだろうな。


 俺達はフォルカの小隊を先頭にして先を急いだ。


 戦力の少ないロジスタルスにしてみれば、分解したラヴェルサをすぐにでも回収して戦力化したいところだろうけど、それは帰り道までとっておくしかない。一番大事なのは集落に住む人々の命を守ることだからな。


 ラヴェルサとの決戦の時、俺はこの世界の人たちを見捨てる選択肢を選んだ。

 被害を与えたわけじゃないけど、俺は短慮で愚かだった。

 今は心から皆を救いたいと思ってる。

 それが結果的に、俺の望みに繋がっている。


 勾配のある道が続いてるから姿は見えないけど、レトレーダーに機人の反応がある。かなりの数だし、間違いなく戦闘が行われている。


「これラヴェルサに囲まれてないか?」

「うん。だけどこの人達強いよ。二機だけなのに上手くお互いをカバーしてるよね」


「剣星さん!」


 先行するフォルカから無線が飛んできた。

 心なし声が弾んでいる気がする。

 丘を登りきると、俺にも理由がすぐに分かった。


「リンクス!」


 リンダとルシオの動きだ。間違えるはずがない。

 慌てて無線を合わせる。

 どうやら二人もこっちに気づいたようだ。


「えっ、団長?! やっぱり生きてたんですね!」

「違うよ、リンダ、僕だよ! 剣星さんもいるよ!」


 興奮するフォルカが少し微笑ましい。

 それだけ嬉しいのだろう。

 でも俺も一緒になって喜んでたら駄目だ。

 小隊メンバーに指示を出す。


「各機、俺の後ろにつけ。一撃離脱して救助に向かう」


 第八エリアで戦った時みたいに一塊になって戦うんだ。あの時とはメンバーも違うし、練度はさらに違う。時間もあまりないから、俺が先頭で危険を引き受けて、さらに経験を積ませる必要がある。


「大丈夫。みんなちゃんと付いてきてるよ」


 丘を下ってるから速度は増してるはずだけど、遅れずに付いてきてるってことは思った以上にやれるようだな。これならイケるはずだ。


 俺達は二人を囲むラヴェルサの群れに向かって突っ込んだ。

 このまま一気に反対側から脱出できるだろう。


「リンダ、ルシオ! 後ろにくっつけ!」

「剣星か! 了解、助かるぜ」


 形勢は一気に逆転だ。


 分断したラヴェルサの群れの片方に対して、フォルカ小隊が襲い掛かる。

 残った方も俺達がUターンして始末した。




 リンダとルシオの操るリンクスを見た時、俺の心は単純に嬉しさで一杯だった。


 でも今は緊張しまくってる。アルフィナの名での活動を広めていく事もそうだけど、何より俺達はこれから情報交換をしなくてはならない。つまりあの決戦の時に何が起きたかを話す必要があるんだ。


 二人にはできれば……いや絶対に俺達と共に来てほしい。

 傭兵としての腕前は勿論のこと、何より信頼できる大切な仲間だから。

 だけど、果たして俺は二人を説得できるんだろうか。


 これから俺は副長を殺したことを言わなければならない。


 フォルカは目の前で団長を殺されかけたから、副長と敵対することは自然の成り行きだったと思う。でもリンダは副長のことを好きだった。俺に対してどんな行動にでるか分からない。


 戦闘が終了して再会を喜び合う幼馴染。

 俺は彼らの間に割って入った。


「二人共、また会えて嬉しいよ。ちょっと落ち着いて話をしないか?」

「そうですね。周辺にラヴェルサはいないようですし……」


 フォルカはなんとなく興奮が冷めたような声になった。

 俺が何を話すのか分かったのかもしれない。


「そうね。それじゃ私たちが契約してる町に行きましょ」


 数分後、俺達は小さな町に到着した。家の数は思ったよりもある。まあ、そうでもなきゃ、傭兵を雇う金なんてないだろうしな。もしかしたらリンダたちがリーズナブルな価格を設定してる可能性もあるけど。


 俺達が話をしてる間、俺の小隊には町周辺の警戒を指示。


 フォルカ小隊は町に入って、俺達がアルフィナの名のもとに救助活動をしてることを広めてもらう。年は若くても聖女様ご一行のつもりだ。礼儀を欠く振る舞いは絶対しないように注意しておく。


 小さな小屋に集まったのは、ロジスタルスのメンバーが気を使ってくれたおかげで、ルクレツィア傭兵団の操者とメカニックのおやっさんだけだ。最初に口を開いたのはルシオだった。


「俺達はあの戦いの後、みんなを待っていた。けど誰も戻ってこなかったから、二人だけで仕事を始めようとしたんだ。そしたらいきなりリグド・テランとの関係が悪化してるって聞いてさ」


「二人だけじゃ碌な仕事を引き受けられないし、他の傭兵団に助っ人することも考えたんだけど、戦争が始まりそうだったからね。信頼できない傭兵にいきなり背中を預けるのは嫌だし、だったら暫く辺境に行こうかってことになったの。ここで二人と会うとは想わなかったけど」


 なんだか二人共随分変わったような気がする。

 離れてからそんなに経っていないはずなのに。


「それで、そっちはどうだったんだ? 団長たちは……その無事なのか?」

「うん。団長は今はロジスタルスの病院にいるよ。副長は――」


 俺はフォルカの言葉を遮った。

 ここから先は俺が話すべきだろう。


「副長はあの時、俺と戦って……俺が殺したんだ」

「殺したってお前! どういうことだよ!」


 俺に食って掛かったのはルシオだ。

 恋敵の副長に対しては思うところもあるだろうに、仲間想いのいい奴だ。

 逆にリンダは下を向いたまま。

 俺はそれが怖い。


「戦場で副長は俺達に追いつくなり、すぐに攻撃してきた。それは俺達が聖女であるアルフィナを助けにいくのを防ぐためだった」

「……意味が分かんねえよ」


 それはそうだろう。

 いきなりこんな話を聞かされれば、誰だってそう思うはずだ。


「違うんです! 副長はいきなり攻撃してきて、母さんも傷ついてそれで仕方なく……」


 ありがとうな、フォルカ。


 俺は世界の平和は聖女という犠牲いけにえによって成り立っていることを話した。できるだけ感情的にならず淡々と話したつもりだ。


「副長は世界の平和を守ろうとした。俺はアルフィナを助けるために副長と戦った。そして俺が生き残った。俺はあの時、自分が正しいと思ったから副長と戦った。いや、違うな。今の世界じゃ笑顔になれない人がいる。だから俺は戦ったんだ」


「それってイオリとかいう女騎士?」

「ああ、そうだ」


 それまで話を聞くだけだったリンダが声を上げた。

 でも怒りとかは感じない。


「私さ……副長が剣星のことを見張ってたの知ってた。というか、私が副長にお願いされてたんだ。それでずっと報告してた。どんなに細かいことでもね。あんたに何があるのって軽く考えてたけど、まさか聖王機に乗ってたなんてね。想像以上」


 リンダはただただ悲しんでいるように見える。


「私たち傭兵だもんね。所属が違えば戦うこともあるよね。副長と剣星は立場が違っただけ。……悲しいけどそれだけのこと」


「何でそんな簡単に納得してんだよ! 悔しいけど、お前は副長のことが好きだったんだ。自分の気持ちを誤魔化してんじゃねーよ!」

「なんでルシオが怒ってるのよ。……でも、もういいの。心のどこかで死んでたんだって納得しちゃってた」


「リンダ。俺が勝手に思ってることだけど、俺は副長の分まで世界の平和を守ろうと思ってるんだ。副長の望んだとおりじゃないけど、世界中の人を救うって。二人にも手を貸してほしい」


「それって、あの騎士のためでしょ?」

「そうだ」

「ふ~ん、剣星ってそういう人だったんだ。意外」

「俺もそう思う」


「いいよ、手伝ってあげる。それでいくら払える?」

「はっ?」

「私たち傭兵だもんね」


 リンダは指で金貨が入りそうな丸を作った。

 でも俺には先立つモノはねえ。

 キルレイドさんから少しだけ貰ってるけど、傭兵の頃より稼ぎは大分少ない。


「出世払いとかで……お願いしたい」

「いいよ、それで。ホントに聖女様が立つんなら、剣星もそれなりの立場になるだろうし。ロジスタルスと繋がりを持つのも悪くないかな。ルシオはどうするの? 私が行くから自分も、なんて止めてよね」


「俺は正直、何が正しいかなんて分からない。話を聞いててもどこか他人ごとのように感じてしまう。でももしリンダが聖女だったら、そう考えたら絶対そんな世界は認めないと思うんだ。だから剣星、俺も一緒に戦わせてくれ」


「……そう、まあいいんじゃない。でも合流はもう少し先ね。こことの契約もあるし。まあ、ちょうどよくラヴェルサのパーツが手に入ったから、それを譲ればすぐに他の傭兵が来るでしょ」


 そうだよな。誘われたから、はい合流とはいかないよな。

 町の住民のことも考える必要がある。

 そうじゃないとアルフィナの名前に傷をつける事になるからな。

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